子供じゃない
―自室 早朝―
「巽様……あの、巽様……」
「兄様、起きてって!」
「ん……」
目を覚ますと、二人の少女が僕の顔を覗いていた。僕から見て右にいるのが小鳥で、左にいるのが皐月だ。小鳥は不安そうな表情で、皐月は明るい表情でこちらを見つめている。
「あのね、今すっごい大変なことになってるんだって! 兄様がいないと大変だって! 小鳥ちゃんがね、ずっとお部屋の前でうろうろしてたの。変なの~って思ってね、それでぇ――」
「あぁぁ! も、もういいです! やめて下さい! 巽様! 颯様がお呼びです」
小鳥は、少し顔を赤くして早口でそう言った。
「父上が?」
寝ている場合ではない、と僕は起き上がった。父上が呼んでいるのなら、急いで行かなくてはならない。
「はい。お部屋におられますので……」
「分かった。わざわざありがとう」
「い、いえ……私の仕事ですから」
小鳥は俯いた。先ほどから少し元気もないし、ぎこちない。
(まだ根に持ってるのかな? 味噌汁程度……ふん)
「じゃあ、僕は着替えるよ。僕の半裸なんて見たくないだろうから、二人共部屋を出てくれる?」
「は、はい。承知致しました」
小鳥は軽く頭を下げると、慌てて扉から出て行った。しかし、皐月は僕のベットから動こうとはしない。
「皐月?」
「家族だからいいでしょ」
(良くないんだよ……傷がどれくらい癒えてるか確認しないといけないのに)
足の傷が、一番損傷が激しかった。しかし、それ以外にもいくつか傷があった。主に背中辺り。
流石にそれを確認するには、上の服を全て脱がなくてはならない。が、皐月がいる状態ではまずいだろう。色々不審がられる。
「……おかしいなぁ」
皐月を追い出す為、僕は一芝居打つことにした。
「おかしいって何が?」
皐月は頬を膨らませる。
「皐月って今何歳だっけ?」
「八歳!」
皐月は笑顔を浮かべ、指を八本立てる。
「八歳かぁ~じゃあ仕方ないかなぁ」
「仕方ないって何が?」
「皐月は子供ってことさ。まぁ、八歳だかね。八歳は子供だよね。兄の裸を見ても、何とも思わないんだから。いや~ごめんね、悪かった。じゃあ、今から――」
見る見る内に、皐月の顔が赤くなっていく。僕は知っていた。子供扱いされることを皐月を望んではいない。子供扱いをしたら、こんな風に怒る。
「もーーーー! 皐月は子供じゃないもん! 兄様の馬鹿馬鹿馬鹿!」
皐月はベットから宙回転して飛び降りると、そのまま荒々しく扉を開けて部屋から出て行った。こうなったら、皐月は一週間は根に持つ。
皐月を傷付けてしまったことには変わりがないので、後でお菓子でもあげよう。お菓子をあげたら、いつも機嫌を元通りにしてくれる。
「はぁ……」
一息吐いた時、僕は思い出した。
(瞬間移動したのに……どうして僕は平気なんだ?)
普通に眠っていたし、苦しくもない。昨夜のことはいまいち思い出せない。覚えているのは、ただ必死で腐った肉を食べたことだけだ。
(これも化け物の恩恵か? まぁいいか。無事なら)
僕はベットから降りて、タンスへと向かった。