表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十六章 壊せ奪え
319/403

見抜かれた優しい嘘

―? 夜―

「ここは……?」


 気が付くと、僕は見知らぬ場所で座り込んでいた。そこは、気が生い茂った不気味な場所。風の音や風に吹かれる木々の音が怪しく聞こえる。

 恐る恐る手を見ると、そこには僕の手があった。元に戻っていた。しかし、その手は血で汚れていた。安心感と驚きが同時に僕を襲った。


「どうして?」

「うぅぅ……」


 人のうめき声がした。声のした方へ顔を向けると、そこにはゴンザレスがいた。


「ゴンザレス?」


 僕は立ち上がった。その時見えた、足元にあった物……肉の欠片。それが何の肉なのか、考える間もなくすぐに分かった。


「あぁ、落ち着いてきた化け物の騒動が再び再燃か。皐月も怖がるな……」


(これが狙いだったの? それとも、ただ単にお腹が空いたから?)


 化け物からの返答はなかった。答えるまでもない、と言った所か。僕は城で化け物の姿になった。ゴンザレスがいることから考えると、その姿で大暴れしたことは明らかだろう。


(でも、なんでゴンザレスを?)


 ゴンザレスの様子を確認するため、僕は歩こうとした。すると足の方から、まるで皮膚が破れてしまうような痛みを感じた。そこから、血がとめどなく出ているのが分かった。切り裂かれた跡がはっきりと見えた。

 鋭利な物で力強く。覗き込んでみると、その傷は深いことが分かった。白い物が見え隠れしている。この覗くという行為すら苦しかった。


(あぁ、厄介なことに……ん? 誰か来る)


 遠くから大勢が近付いてくる足音と匂いを感じた。確実にこちら側に向かって来ている。もしかしたら、城の追手かもしれない。仮にそうでなくとも、この状況を見られてしまうのはまずい。僕は魔法を使って浮き、木へ上がった。そして、葉の陰で息を潜めた。


(痛い……血が……)


 魔法を使ったことで、傷口からの出血がさらに酷くなった。僕の治癒魔法では、とても治せるような傷ではない。ポタポタと零れ落ちる血を、必死に服で押さえる。


「あの化け物はこっちの方に!」

「気配を感じる、構えよ!」


 はっきりと声が聞こえる。葉によってその姿を確認することは出来ない。しかし、匂いや音、それだけで距離感ははっきりと掴めた。


「おい、ここに人が倒れているぞ!」

「こっちには肉片だ!」

「待て、これはゴンザレスではないか!?」

「……怪我をしている様子はない。だが、血塗れになってる!」

「まさか、こいつが?」

「分からん」

「と、とりあえず……ここに人やら獣やらが入らんようにしておけ!」

「こいつはどうしますか?」

「分からん」


 騒がしい男達の会話が聞こえる。今はゴンザレスを取り囲んでいるようだ。

 しかし、先ほどの会話を聞く限りではしばらくここを監視しているようだ。やはり、一刻も早くここから抜け出さなくては。


「う゛……」


 意識が朦朧とする。もはや、手段を選んでいる暇などないだろう。


(大丈夫……僕は死なない。まずはこの怪我を治さないとね)


 僕は魔法で存在を消していた、古い肉を取り出した。あまりいい感じはしない臭いがする。だが、効果を信じるしかない。

 その肉を息をとめて、口に入れた。まるで苦い薬のような味だった。それでも、必死に食べ続けた。


「ゴンザレスは連れて行こう。ここに放置しておいても仕方ない」

「ですね、重要参考人って奴ですね」

「うるせ、さっさと行くぞ」


 何人かが、ゴンザレスを連れて去って行ったのが分かった。しかし、まだここには数十人近くいる。


(傷は……どうだ?)


 新鮮な御霊村の肉とは、やはり違って治癒は遅いようだ。ようやく血が固まってきている。


(完全に終わったら……瞬間移動を使おう。何とかなる、よね)

***

―皐月 巽の部屋 夜中―

(兄様……嘘つき……)


 真っ暗になった部屋は怖かった。もう兄様の温もりは消えてしまった。少し苦しそうに窓から飛び降りた兄様は、まだ帰って来ない。兄様は嘘をつくのが下手くそだ。子供の皐月にでも、分かってしまうくらい。皐月に出来るのは、ただ無事を祈ることだけ。


(兄様……早く帰って来て)


 すると、その祈りが通じたのだろうか。目の前に突然、兄様が現れた。思わず、驚いて声を出してしまいそうになった。


「はぁはぁはぁはぁ、はぁ……」


 兄様はうずくまり、大きく呼吸を繰り返している。とても苦しそうだ。寝たふりをするべきなのか、兄様の様子が変だと誰かに伝えるべきなのか迷った。だって、兄様からは血の臭いがするから。


(どうしようどうしようどうしよう)


「はぁ、はぁ、はぁっ……」


(ううん、迷ってちゃ駄目。皐月一人でもどうにかしてあげる)


 兄様に触れた。最近、学者の先生に教えて貰った魔法だ。落ち着かせる効果のある魔法。まだ習ったばかりで完璧ではないけど。


(助けてあげる。皐月も頑張る)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ