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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十六章 壊せ奪え
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その思いは変えられない

―自室 深夜―

(もう大丈夫かな……)


 皐月は僕に抱き着いたまま眠っている。寝つくまで、少し時間がかかった。僕も眠れたら良かったのだが、一度目覚めると中々寝れない体質であるため出来なかった。

 しかし、今度こそ完全に眠ってくれたようだ。僕が少し離れても、もう引きとめるようなことはしてこなかった。不安そうな顔のまま、眠っている。


(皐月は独りじゃない……大丈夫だよ)


 皐月を起こさないように、優しく頬を撫でた。そして、ベットから今度こそゆっくりと降りた。


「うっ……!」


 ひさしぶりの感覚だった。何と言うことか、僕の手の爪が鋭く伸びてきていた。


「あ……あぁ……どう、して……」


(このままでは皐月を……! 駄目だ、とりあえず外に出ないと!)


 ふらつく足を、何とか支えにしながら僕は窓へと向かった。あまり、大きな音は立てられない。


(どうして? 何故だ?)


 ――借りるよ、君の体。心配しないで……全部君の為だから――


(意味が分からない! 意味が!)


 開けた窓から僕は飛び降りた。辛うじて残された意識の中、それが唯一僕に出来ることだった。皐月を巻き込まない為の。

 倒れるように着地した僕は、少しでも早く城から離れることが出来るように歩んだ。夜の人通りが少ないのが、救いだった。手を見ると、毛が僕を覆い始めていた。


「はぁ……はぁ……」


 目前が霞む、息が苦しい。目の前に立ちはだかる城壁が、僕に絶望を与えた。普段なら、簡単に飛び越えることが出来るものだ。しかし、今この状況では厳しい。


「駄目、だ……」


 体を浮かせようと魔法を使った――のだが、魔法が暴発した。僕ではなく、近くにあった植木が浮いた。


「そんな……」


 それを見て、あらゆる気力を失った。そして、立っていることが出来なくなった。


 ――無駄無駄――


 手を見れば、もうそれは人の物ではなくなっていた。


「あ゛う゛がぁぁぁ!」


 茶色の毛が僕の腕を覆いつくし、鋭い爪が全てを貫かんとしている。僕は恐る恐る顔に触れた。人肌とは違う、ふさふさとした感覚がある。声も声でなくなっていて、もう何も出来ないと悟った。意識が奥へ奥へと押し込まれていくのを感じる。全ての感覚が消えていくのを感じる。


 ――でも、それが君だから――


 心の奥底で願った。


(皐月だけは……傷付けちゃ駄目――)

***

―ゴンザレス 医務室 夜―

「はっ!」


 目覚めると、そこは医務室だった。が、誰もいない。


「まさか、俺は気絶しちまったのか? そういうこと? マジ? はぁ~」


 時間を死ぬほど浪費してしまったようだ。


「ん、何かある」


 天井にメモみたいな物が貼ってある。もしかして、これを読めということだろうか。俺は魔法を使って、それを引っ剥がし手に取った。


『用があるので出かけます。目覚めたら、戻って貰って構いませんよ』


 佐藤だか田中だか鈴木だか覚えてないけど、中々いい手を使うものだ。これは有能だ。寝起きの人にすぐに気付いて貰う、目を開ければすぐメモに気付くし。これから参考にしよう。


「さっさと、あいつにこの事件を報告しねぇと!」


 俺は跳び起きた。それと同時だっただろうか、獣の鳴き声が響き渡ったのは。

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