また一つ嘘をついた
―自室 夜―
「んん……」
いつの間にか、僕は眠ってしまっていた。あれ以上、話を広げられるのが嫌で逃げた。仕事でもしようと部屋に戻った。
が、ベットを見た瞬間眠気に襲われて、誘惑に耐えきれずそのまま夢の中に入ってしまったようだ。夢の内容なんて覚えてないけど。
「寝過ぎたな……」
昼寝をすると、体が浮いた感じがして違和感がある。だから、あまり寝たくはなかった。こんなこと初めてだった。今のようにやるべきことを放棄してまで眠ったことなんて、今までどれだけ眠たくても、睡眠時間が短くとも、ベットを見ただけで眠たくなってそのまま寝たことなんてない。たったの一度もなかったのに。幼少期は暇で、眠ったことはあるが。
「まぁいいか、これから仕事をすれば。流石にあっちは片付いただろうし……う~ん……ん?」
隣を見ると、気持ち良さそうに眠る皐月がいた。いつの間にいたのだろう。皐月が来たことにすら気付かないくらい、眠ってしまっていたらしい。
(僕に何か用でもあったのかな?)
でなければ、わざわざ僕の所になんて来ないだろう。しかし、皐月を起こす訳にもいかない。こんなに気持ち良さそうに眠っているのに、それを邪魔してしまうのは忍びない。
(とりあえず、そーっと……)
ベットが揺れないようにゆっくりと起き上がり、こっそりと降りようとしたのだが、皐月は素早く僕の袖を引っ張った。
「行かないで……兄様……」
眠たそうにこちらを見つめて、小声で皐月はそう言った。
「ごめん、起こしちゃったね。でも、仕事をしないと……部屋にはいる――」
「嫌……一緒にいて」
皐月が強く僕を引っ張った。また、ベットに戻される。よく見ると、皐月の目には涙が浮かんでいた。そして、体が震えていた。
「どうしたんだい? 急に……一緒に寝るんだったら、僕以外にもいるだろう? 母上だって、父上もいる……」
「皐月……兄様がいなくなる夢見たの。睦月姉様も死んじゃって、美月姉様と閏様は眠っちゃって……これ以上、寂しくなりたくない。絶対、いなくならないで」
そう言って、皐月は僕に抱き着いた。その皐月の言葉は重かった。
(皆がそうなったのは僕のせいだ。睦月をとめられなかった。美月に知られてしまってた。閏に大怪我を負わせてしまった。姉弟すら守れなくて、何が王だ。身近な家族すら守れない……守れない……そのせいで、皐月にこんな思いを……)
「大丈夫、大丈夫。僕はずっと皐月のそばにいる……今日は、何もしないよ。一緒に寝よう。大丈夫だから」
そして、僕はまた一つ嘘をついた。