夏の終わりを告げる
―自室 夜―
空に咲いた色とりどりの花が散ってゆく。豪快に大きな音を立てて咲いたかと思えば、すぐさまか小さな音を立てて散る。僕は、その花が散る瞬間を楽しんでいた。
儚く脆い、まるで命のようだ。消えてしまえば、人は先ほどまで咲いていた花火など忘れてしまう。次々咲き乱れる花に魅了されてゆく。
(琉歌……君は花火のようだったね)
今でも琉歌のことは愛している。と、同時に軽蔑している。無駄なことをして、僕の下から去っていった琉歌にもう一度会えたら、馬鹿だと言ってやる。
(君にも見せてあげたかった。花火の散る瞬間を)
花は、美しく咲いた瞬間が美しいのではない。散る瞬間が、最も美しいのだ。完成された物が美しいのではない、完成された物が、壊れていく瞬間が美しいのだ。
(全部壊れてしまえばいいのにね、フフフ)
「巽様」
背後から呼びかける声があった。その声は陸奥大臣のものだ。僕は花火を見ながら、その呼びかけに応える。
「何?」
「申し訳ございません。祭日に邪魔をしてしまって……実はずっと前から伝えなくてはならないことがあり、いつ伝えるべきかと……このまま秋を迎えてはならないと思い――」
「いいから早く言ってよ」
長話は勘弁だ。僕は、この花火を楽しみたいのに。
「あぁ、すみません。貴族が、何者かによって殺された事件についてです」
「……あぁ〜」
先日、陸奥大臣に伝えられたことだ。貴族が相次いで殺害されたのだ。その殺意の刃は、城外にいた貴族にも向いていた。しかし、かつて僕が寺に送った二階堂 洋子だけは無事だった。知らなかったのか、害はないと思ったからだろうか。
それに加えて、さらに不思議なことがある。殺された貴族は皆、おじい様達の息がかかった者だった。
(その犯人については聞いていなかったな)
「私の中でようやく決心がつきました。それに、本来隠すべきではないのです」
「早く教えてって」
花火は今、最高潮に達している。焦らされ、この上かつてないほどの苛立ちを覚えた。
「――ゴンザレスです」
その名前を告げられた瞬間、最も大きくて、彩りのある花火が咲いた。八月三十一日の花火大会の終わりを意味する花火だ。
「へぇ……」
その花火は、盛大に豪快に散っていった。バチバチと音を立てながら、夜空へと溶けていく。その美しさに、僕は魅了されていた。
「大事なことを隠していて……本当に……」
「通りで、過ごしやすくなった訳だ」
僕は振り返って、微笑みかける。
「皐月に、悲しい思いをさせていた奴が皆消えてくれた。ゴンザレスには、褒美をあげてもいいくらいだよ。あ、君以外にそのことを知ってる人はいるの?」
陸奥大臣は、不意を突かれたような表情を浮かべた。
「いませんが……」
「そう、じゃあ僕らの秘密にすればいいね。さて、花火大会も終わったし……僕はもう寝る。わざわざ報告ありがとう。君もたまには早く寝るといい」
「え、えぇ……」
(元凶だけ綺麗に残すなんて……明日、話でもしてみるかな)
揉み消す手段などいくらでもある。ゴンザレスのお陰で、しばらくは平和な日常が訪れるだろう。僕ら兄妹にとって、平和で穏やかな日々が。