燃える心
―秘密の道 夜―
騒めく周囲の木々が城の方から聞こえる声を掻き消した。
東は、真っ直ぐ僕を見る。
僕は自分の胸に手を当てて、小さく息を吐く。これは、自分の行為を自分に受け入れさせる為の僕の習慣。
国の平和と安定を国民に与えるという王の掟に従って、僕は二人を連れ戻す。
(これからは王の仕事だ。多くの国民の幸せの為だ。許してくれ。睦月や東の気持ち、僕の気持ちよりも優先しなければならないんだよ……)
「もう一度言う。命令に従わないのであれば――」
「従いません! 俺は、俺は絶対に! 睦月と一緒に幸せになります!」
先ほどと違って、目には決意が灯り、声には迷いも感じなかった。僕はどうやら、東の心を燃やしてしまっていたようだ。
「そう……か。残念だ」
僕は胸に置いていた手を、東へと向ける。
「っ!? ぐあああっ!」
東は電流に飲み込まれ、体の痛みや痺れに苦しみ悶え、その場に崩れ落ちた。
(嗚呼、なんて残酷なことをしているのだろう)
既に、泣いてしまいそうだった。自分の残忍さに、胸が痛くなる。
(王の仕事、仕事なんだ。もう言い聞かせただろう? 多くの国民の幸せの為、国の為。一部の者の幸せを奪うしか、事態の悪化はとめられない。僕が迷ってどうする? 僕が怯えてどうする? 駄目だ駄目だ……駄目だっ!)
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!」
東の苦しむ声が、不気味な森に反響した。その声のお陰でハッと我に返った。
上手く制御出来ていなかったようで、かなりの強い電流を流してしまっていたらしい。慌てて、力を弱めた。危うく殺してしまう所だった。これだけの電流が流れていたら、とっくに気絶していてもおかしくはない。
だが、まるで生まれたての小鹿のように何度も何度も、東は立ち上がろうとする。
(やめてくれ……どうして気絶しない? 何故、何度も立ち上がろうとする? そこまでして……睦月の所へ行きたいのか)
僕の手は、小刻みに震えていた。目の前のとんでもない男への恐怖心から僕の手が震えているのだ。
少し前まで、あんなに怯えていた男が、電流を受けても途中で諦める事もなく、ただひたすらに耐え続けている。
東は、顔を上げ僕を睨んだ。その目は絶対に負けないと僕に訴える。目の前の男は、途轍もなく強い男になってしまったようだ。普通の人間だったら、もうとっくに気絶するなりしているだろう。
(東の意志が強過ぎる。どんな精神力をしているんだよ……あの時震えていた奴とは、まるで別人じゃないか)
思わず手を下ろしそうになった時だった。僕は、背後にあった壁まで思いっきり衝突した。不意打ち過ぎて、対応出来なかった。
突然、目の前から懐かしい拳が飛んできたのだ。




