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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十五章 破滅の道へ
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決めた覚悟、それは

―神の間 夜―

「やっぱりここにいたんだね」


 本当に熱心なことだと思う。もはや、ここは陸奥大臣三つ目の部屋だ。手を組み、いつものように熱心に祈っている。


「巽様!」


 僕が話しかけると、目にもとまらぬ速さで彼は僕に抱き着いた。体の自由は一瞬にして失われ、拘束された。


「本当に良かったです……巽様の無事を確認出来てから数日経ち、ようやく元気そうな顔を……あぁ本当に良かった」


 この国の者達は、どうしてすぐに抱き着いてくるのだろうか。そもそも、王であるこの僕にこんな気軽に抱き着いてくるなんてどうかしている。

 僕だってこの国で生まれ、生活しているが……もしかしたら無自覚で同じようなことをしている可能性も否定出来ない。


「心配かけてすまないね……でも、だからと言って王としての職務を放棄する訳にはいかない。だから帰って来た今日仕事をしようと思って、陸奥大臣に会いに来たんだ」


 僕がそう言った後、ようやく彼は拘束を解いた。そして、僕の顔を心配そうな表情を浮かべながら見つめる。


「そんなお体に、鞭を打つべきではありませんよ。熱心なのは素晴らしいことですが、休むことも大切なお仕事なのですよ」

「十分休んださ。戦争の処理も僕のことも皆に全て押しつけてしまった……その分はちゃんとやらないとね」


 父上は王としての職務は、全て自分でやっていた。それでも上手く出来ていた。それなのに、僕はいつも助けて貰ってばかり。

 それを証明するかのように、僕が王になったばかりの頃、大臣の下で働くある局員達の話を聞いてしまったことがある。


『今は仕事が多過ぎる。昔はもっと家族と遊ぶ時間もあった』

『仕方がないよ、突然のことで巽様も苦労されている』

『でも、颯様がやっていた仕事を我々がやるのはなぁ』

『巽様はまだ若いんだから、我々が支えないと』

『そうそう、比べちゃいけねぇよ』


 あれから僕は、この数年で変われただろうか。いやちっともだ。表では、僕を褒め称える皆も裏で何を言っているか分からない。


「しかし……」

「大きな仕事はやらないさ、資料に目を通すくらいの仕事をやる。それで、地下の牢獄にいる囚人達の情報を整理したいんだ。彼らの最期を見届ける前に……彼らがどんなことをしたのか知りたいんだ」


 地下の牢獄、そこは重罪人が収容される場所。入口からしか光は入らない。人間が魔法を使うことは出来ない、絶望の場所。死を待つ人々の目に希望はない。彼らの死を決めるのは僕。それがずっと耐えられなくて、執行するのから逃げてきた。でも、もう逃げない。


「なんと……そうですか。それならば……私の大臣室に囚人達の資料があります。局員に話は通しておきましょう。いつでも好きな時に取りに行って下さい」


 陸奥大臣は、少し俯きながら寂しそうに呟いた。人数が減れば監視の手間も省けていいだろうに、どうして寂しそうなのだろうか。いつかきっと、あいつも入れてやろうと思っていたが……仕方があるまい。


「助かるよ。後さ、一つ聞きたいことがあるんだ」


 僕がそう言うと、彼は顔を上げて首を傾げた。


「……やっぱり何でもないよ。忘れてくれ。礼拝の邪魔をして悪かった、僕は行くよ」

「そうですか? 何かあったら言って下さいね」


(他人の評価なんて……聞けないな。僕みたいな程度では駄目だ)


 心に残る異物を感じながら、僕は部屋のある武者平屋へと向かうことにした。

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