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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十五章 破滅の道へ
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分からないさ、人の本当の姿なんて

―廊下 夜―

 飢えは凌げた。でも、満足していない。期待以下の量で、僕には物足りなかった。

 あの後、ゴンザレスは本を持ったまま消えた。恐らく、子供の方の小鳥の所へ行ったのだろう。


(癒えたかな……)


 包帯の巻かれた首に触れてみる。まだ少し違和感を感じるが、触れた時の痛みは小さくなっていた。

 やはり、普通に治療するよりかはこちらの方がずっといい。後で、使用人に狩りに行くよう頼んでみよう。


「うわっ」


 何かにぶつかった。視線を少し下に向けると、両耳を覆う機械をつけた女が不機嫌そうな顔で僕を見上げていた。真正面から向かって来ていたようだが、全く気付かなかった。


「君は……」


(花宮大臣か、見かけたのはいつぶりかな。会議もいつも欠席だったし)


「誰だっけ」


 幼い頃からのやり取りを、あえてやってみた。彼女に意地悪するのが楽しくて、わざとやっていた。彼女に好意があった訳ではない。反応が面白かったからだ、個人的に。

 そんなことばかりやっていたから、彼女には随分と嫌われている。僕も、所詮は武者階級の彼女が立場を弁えないから嫌いだ。会議は当然のように出ないし、出席しろという命令にも従わない。命令に抗うのなら、大臣職を没収することが出来たならいいのに。

 そればかりは王という立場でもどうしようも出来ない。それがこの国から階級社会が消えない原因だ。もう今更、僕も平等なんて求めはしないけど。


「は~、久しぶりに会ってもそれかよ! もう大人だから取り乱したりはしねぇけど、マジありえないから。見た目は大人でも、中身は餓鬼のままってか。ふん」


 前会った時はお互い子供だった。海外へ留学することになった彼女のお別れ会をした記憶が最後。会議などで出会う機会は、彼女が全て壊してくれた。ひさしぶりに会ったと思ったら、王である僕を完全に舐め腐った態度。


「あの時さぁ、あんた大号泣だったよなぁ」


 覚えている。何故そんなに泣いてしまったのか、それは当時の僕にとって城内で唯一友達と呼べる存在だったからだ。今は、大臣と王という関係で友達でも何でもないが。


「そうだね」

「無愛想な奴……可愛げも消えてさ、なんでそこだけ変わるのさ? 怖い怖い……あいつもお前も変わり過ぎだよ」


 彼女はどこか悲しそうな目を向けながら、わざとらしく身を震わせた。


「あいつ?」

「あん? あの無能……興津大臣のこと。戦争のことを色々話し合う会議があったんだけど……全部あいつが取り仕切ってさ。は? って思ったんだけど、全部いいように事を運んでさ。もう無能って呼べないからさ~萎えてたんだ」


(彼女がこそが裏切り者の正体……でも、今は利害の一致した協力者)


 時が来れば、国の混乱の原因を消せる。それが出来るのなら、どんな卑劣な手でも使う。国を守るという王の使命を果たせるならなんだって。


「人の本当の姿なんて……分からないものさ」


(ここで無駄話なんてしてる暇はないし、あの熊鷹を放置するのもあれだな……処刑が決まっている罪人のことでも聞いてみるか。陸奥大臣かな)


「悪いけど、僕はもう行くよ」

「帰って来て怪我もしてるのに、立派なことで。じゃ~ね」


 彼女は手をヒラヒラさせながら、僕の横を通り過ぎて行った。


(鬱陶しい)


 僕も、陸奥大臣がいそうな場所へと向かうことにした。

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