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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十五章 破滅の道へ
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力に屈しない

―ゴンザレスの部屋 夕刻―

「汚い……」


 僕は、ゴンザレスの部屋に連れて来られた。この部屋に来るのは二度目だ。前よりも汚くなっているような気がする。山積みになった本が床に積み重ねられ、紙が散乱している。足の踏み場がない。


「いや~すまんすまん、片付ける暇も心の余裕もなくてさ~」


 ゴンザレスは、照れ臭そうに頭を掻いた。それにしても汚過ぎる。入ってすぐにあった本が邪魔だったので、手に取ってみた。


「なんて読むんだ、これ」


 英語で書かれている本だった。しかし、英語が苦手な僕にとってはただの文字の羅列。ただ、なんとなく興味を持ったのは表紙に描かれている絵が龍だったからだ。


「龍の加護と厄災って書いてる。昔の英国の学者が書いてた本らしい。内容にも興味があってな」

「興味がある本をこんな所に置いてていいのか?」

「先に消化しないといけねぇ積み本が……って俺はこんな話をする為に、お前をここに呼んだわけじゃねぇ」


 ゴンザレスは表情を硬くした。こいつは、表情と雰囲気がすぐに変わる。本心からそうしているのか、装いの為に、そうしているのか……本当に掴めない奴だ。


「大方、大人の方の小鳥のことかな?」


 僕は、ゴンザレスに微笑みかける。


「その通りだ、ぶっ殺す」


 ゴンザレスは、満面の笑みを浮かべた。しかし、目は笑っていない。話の内容と目から伝わる殺意だけは一致しているようだ。


「いつ合流したのかな……御霊村でかな」

「お前が帰って来て、あいつが近くにいるのも分かって……でも、すぐには来ないから、どうせお前の様子を見に行こうとでもしているんだろうなと思っていた。囚われたお前があらゆる事情を知ってる小鳥に会えば、頼むことなんて知れている。あいつがどんな怪我を負っていても、なんとも思わず……」


 そう話すゴンザレスからは、笑顔も殺意も消えていた。感情や表情を装うのを忘れてしまうくらい、思うことがあるのだろうか。


「とりあえず、ほら、くれてやる」


 ゴンザレスは魔法で空気中から肉を取り出すと、それを僕に投げた。僕は肉を掴んだ。美味しそうな肉の香り、小さくなっていた食欲が肥大化していくのを感じる。


「……これだけ?」


 僕は動物そのものの大きな肉が欲しかった。それなのに、これは加工された後の一部の肉だけ。これだけじゃ、僕は満足出来ない。


「そんだけありゃ十分じゃんか、猪の右足だぜ? 結構あるだろ」

「丸々一体じゃないと……満足出来ないんだよ……だから持って来てよ、僕の為に動くのが常識でしょ?」


 こう言えば、ゴンザレスも僕の思うがままに動くと思っていた。しかし、違った。


「い・や・だ!」


 ゴンザレスは舌を出して、僕を挑発した。


「なんで……」


 ――ゴンザレスは、どうやらお酒を飲んだことがないみたいだねぇ――


(こんな軽そうな奴が酒を飲んでない!?)


「俺はお前の力に屈しない! 理由は簡単だ。高校の時のアルコールパッチテストで、一回目にして真っ赤に晴れ上がり生命の危機を感じたからだ! 俺は生まれてこの道、酒なんてもんは飲んだことがねぇ! まさかこんな所で役に立つとはな!」

「あるこぉるぱっち……まぁ、それはいい」


 聞き覚えのない単語に少し混乱してしまったが、とにかくゴンザレスは、僕の力の影響を受けないようだ。


「お前が使えないのなら、他の奴に頼む」

「おう、そうしろよ。あとついでに、自分が化け物なのは当然だしおかしなことじゃねぇってしとけよ。そしたら――」

「駄目だ!」

「はぁ?」

「人間なんだよ……人間じゃなきゃ駄目だ」


(父上は化け物じゃない……そんなの違う)


「あっそ……ま、俺は行く。どっちの小鳥も可哀想だからな」


 ゴンザレスはそう言うと、空気中に溶けるように消えた。


(……お前に何が分かる。僕の理想は化け物としての王じゃない、父上のような王だ)

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