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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十五章 破滅の道へ
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目覚めの時を

―閏の部屋 夕刻―

 既に頭の包帯は取られていた。しかし、目は固く閉じられたまま。かれこれ数カ月は眠っている。見た目は、つい先ほど寝始めたのと何ら変わりはないのに。僕は、閏の頬に触れる。


(不思議なものだね……閏を見てもお腹が空かないや)


 母が違えど、血を分けた兄弟だからだろうか。美味しそうな匂いがしない訳ではない。だが、食欲は高まることはなかった。

 眠ったままの閏を見ていると、安心感を与えてくれる。それに何故だろう。閏を見ていると、心の奥底から温かい何かが湧き上がってくる。

 あまりにも愛おしくて、つい、閏の頬を丸を描くようにして回してしまった。半紙のように滑々で、餅のように柔らかい。こんなにも頬をつついていたら、目覚めてしまいそうなものだ。だが、閏は目覚めない。


「閏、僕はもっと君と話したい」


 閏は寡黙だった。寡黙過ぎるにもほどがあるくらいで、発した言葉はこの指に収まってしまうくらいだった。頷いたり首を振ったり、それだけが僕らの出来た会話だった。あらゆることに興味を持ち、見聞きしたことを話したがる年頃なのに何故――。

 皆、閏の将来に不安を感じていた。その時にあいつが、ゴンザレスが現れたのだ。今までのことが、嘘であったのかのように閏は喋り始めた。それでも平均的な子供と比べると、言葉数は少ない。

 だが、昔を思うと本当に別人だ。今までは何だったのかと、何故ゴンザレスがきっかけなのだと思わないこともない。


「だから、早く起きなよ。皐月も、遊び相手がいなくなって寂しいと思うんだ」


 勿論、この声は届かない。閏は、深い深い夢の中に囚われ続けているに違いない。その夢はあまりにも楽しくて、面白くて、きっとこのままでいたいと思っているのかもしれない。


「……君には、やって貰わないといけないことがあるから。ゴンザレスの為に」


 僕はそう言って閏から離れた。この声が、少しでも閏の耳に届いてくれたのなら――。


(お願いだ……目覚めてくれ)


 僕は閏に全てを話す覚悟がある。閏なら、きっと大丈夫だと思ったから。閏なら口も堅い。それに、誰かに話した所で子供の言うことなど、僕が否定さえすればほとんどの人が閏を信じることはないだろう。大人の大抵は僕が言えば、思うがままに出来る。

 閏は、まだ僕の思うがままには出来ない。ただ、僕の考えさえちゃんと通じれば手を貸してくれるはず。そう信じたい。男の閏であるからこそ頼めるのだ。この国では、まだ男の方が高位な職への優先度が高い。だから、僕はそれを利用する。


(次は美月、大丈夫かどうか見に行くとしようか)


 僕は閏の部屋を出て、美月の部屋へと向かった。

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