度重なる問題
―秘密基地 夜―
やはり、そこには誰もいなかった。でも、いた形跡はあった。道へと続く穴が塞がれていない。つまり誰かが使用したということ。その誰かなんて、あの二人くらいしかいないけど。
(あれだけ大荷物で行ったのなら、そりゃこうなるよね。やれやれ……)
僕は、なんとか穴を潜り抜けた。あの二人は僕以上に小柄だから、ここを選んだのだろう。最悪、見つかっても時間稼ぎは出来る。でも、その時間稼ぎする相手は今の所僕しかいない。
普通であれば、ここにも捜索の手は伸びているはずだ。だが、残念ながらそれは不可能なことである。その理由は簡単だ。
広大な敷地に、部屋数の多い城、取り壊されない数多くの建物、足りない人員、あらゆる点が重なってこの穴が生まれたのだ。監視も弱く見つかりにくいのは、ここまで手が回らないから。他の場所の修理が優先され、普段から使われないこの場所は放置される一方なのだ。
(はぁ……どうして問題はなくならない? どうして次から次へと問題が発生する? 何故、わざわざ問題を起こす?)
湧き上がる不満と苛立ち、考えれば考えるほどそれは大きくなる。
「誰でもいいから僕に教えてよ。誰でもいいから……」
すると、暗闇の向こうからドタバタとこちらに向かって走る音が聞こえた。人影も見える。やがて、それは誰であるかを僕に認識させた。そして、相手も僕を認識したようだ。
「ゴンザレス様!?」
「あ……この格好はしてるけど、僕、巽なんだよね。あはは」
僕は相手を安心させるために笑って見せた。
でも、それは出来なかったみたいだ。東の足はガクガクと震え始めた。今の東には、僕の笑顔が怖く見えたのかもしれない。
「え!? 巽様!? 何でその格好を……」
「今はそれより君達の方が優先だよ。東……ねぇ、ここで何をしてるの? なんて愚問かな」
「それは、その……」
動揺して、明らかに挙動不審になっている。分かりやすい。
「僕はね、全部分かってるんだよ。そう分かってるんだ……」
僕は、東に口角を上げながら、ゆっくりと近付く。
「え……?」
「やっぱり無自覚か教えてあげるよ。君達はとっても分かりやすい。きっと大半の人達は二人の関係に気付いてたんじゃないかな、心当たりない?」
東の目の前で立ち止まって、僕は質問した。
「いや……もしかして、あ、あれは……そうだったのか……?」
どうやら心当たりがあったらしい。僕と同じで二人もかなり鈍いようだ。
僕は、動揺する東に手を差し出した。
「今ならまだ間に合う。君達がしていること、言わないであげるからさ。馬鹿な真似はやめて戻ろうよ。皆も探しているから。怖いんでしょ? わざわざ怖い思いなんてしなくてもいいじゃないか。だから――」
「……お断りしますっ! 俺はもう決めたんです!」
東は思いっきり、まるで誘惑を断ち切るかのように僕の手を叩く。
「痛いなぁ。あはは……そう。怖いのに頑張るんだね。それが愛の力って奴かな、素敵だね。でも、僕にだって理由があるんだよ。それが王の仕事だからね。命令に従わないのなら、力尽くでも戻って貰うよ」




