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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十五章 破滅の道へ
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手に入れ失う

―医務室 夕刻―

『王は、自身の感じる幸せを民に分け与えなくてはならぬ。お前には、それが出来るはずだ……』


 一番最初、父上から言われたこと。忘れていた、いや、奪われ封印されていた記憶から取り戻したものだ。封印されていたせいなのか、昨日のことのように思い出せる。

 当時の僕には、その言葉の重みは分からなかった。それでも、それなりに考えたものだ。当時の僕が感じていた幸せはお菓子を沢山食べること、おもちゃで遊ぶこと、皆と話すことだった。その幸せを、分け与えればいいのだと思い込んでいた。

 でも、違う。そんな幸せを皆が求めている訳じゃない。今の僕には幸せなことが何もない。成長の中で全てを失った。自由もない、愛する人もいない。あるのは僕が守るべきものだけ。王という職務に希望も抱けないし、これと言ったやりがいもない。これから先、死ぬまで王として居続けなくてはならないのだと思うと絶望しかない。そんな僕に、幸せを分け与えることなんて出来ない。王として失格だ。いや、もうずっと前から失格だ。それでも諦めたくない。ここで諦めてしまったら、きっと父上は僕に失望する。


(頑張らなきゃ……父上に認めて貰うために、僕が幸せにならなくては……僕が、僕が)


「――巽様? あの、あの~」

「え?」

「どうされましたか、ずっとボーッと……」


 佐藤さんは不思議そうに首を傾げていた。物思いにふけっていたせいで、周囲の音にまったく気づけていなかった。この様子だと、彼女はずっと僕に話しかけていたのではないだろうか。


「すみません、色々考えていまして……火傷はどうですか?」


 城に戻るや否や、僕はすぐここに連れ込まれた。僕の首の火傷を見て、皆顔色を悪くしていた。しかし、僕の目のことについては誰も何も言わなかった。僕があの場で言ったことが、この城にまで届いているとは思っていなかった。一度言えば、それだけで十分なようだ。


「首の火傷は、そう簡単には治せそうもありませんね。体の治癒力のこともありますし、ゆっくり治療していきましょう。とりあえず、消毒と雑菌が入らないように包帯を巻いておきました」


 首元を静かに触ると、確かに布の感触があった。刺激を与えないよう触ったつもりだったのだが、足にまで痛みが届いた。

 彼女が治療している間に痛みがなかったのは、僕が自分の世界に入り込んでいたせいだろうか。


「……ありがとうございます」


 僕は知っている。こんな面倒なことをしなくとも、僕には最適な治癒の仕方があることを。それをすれば空腹もなくなるし、怪我も治る。忍ばせていた肉は腐ってしまった。部屋に隠し、保管していた肉ならば大丈夫かもしれない。


「あ、そういえば」


 佐藤さんは、気恥ずかしそうな表情を浮かべて言った。


「……私、巽様に何か誓った気がするんです。でも、何を誓ったか覚えていなくて……う~ん、誰かの治療をしていたような気もするんです。でも、その資料も残ってなくて。ずっとモヤモヤしてて、これが老いるってことなんですかね? それとも、夢と現実の区別がつかなくなってしまったんですかね? 巽様、私は夢を見ていたんでしょうか?」

「え……いや、そんな」


(琉歌のことを覚えていないというのか!? それどころか、琉歌に関することまで? まさか……!)


 僕は医務室を飛び出した。呼びとめる彼女の声など、どうでも良かった。 

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