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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十五章 破滅の道へ
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掌握せし力

―港 夕刻―

 辿り着いた瞬間、大きな歓声が響いた。僕の姿を見て涙を流す者、手を取り合い喜んでいる者……皆、僕の無事帰還してきたことに安堵しているようだった。そんな心配しなくても、僕は死なないのに。

 外の空気は心地いい。ずっと、興津大臣に部屋に閉じ込められていた。大怪我を負っているし、その化け物が暴れだした時に困ると。


(お腹が空いた……あぁ……)


 周囲には沢山の人がいる。どれも汚らしく貧相な格好をしていて、肉としての価値も低そうだ。だが、この際空腹を感じなくて済むなら何でもいい。

 船で用意された食事は、食べられなかった。化け物が目覚めてしまったので仕方がないが。このままでは美月まで餓死してしまう、早く何かを食べなければ。ご馳走が目の前に並べられているようなもの、自身を抑えることなどもう――。


「ねーねー、どうして王様は目が黄色いの?」


 無邪気な子供の声が耳に入った。その声が、周囲に困惑をもたらした。


「言われてみれば確かに……」

「王族は初めて見たからのぉ……王族は皆、目が黄色いんかのぉ」

「えー?」

「でも写真とかでは……」


 子供が純粋な質問をするまで、誰もその疑問を抱かなかったのだろうか。僕にとってこれは不都合なことだが、心配になった。国民がここまで馬鹿だとは思わなかったからだ。常識的に考えれば分かることだろう。まぁ、愚民だから仕方がないのかもしれない。


 ――こいつらを黙らせる方法がある――


 体の奥から、また化け物の声が響く。


(何?)


 ――僕は、君のお陰で本体と同じ力を使えるようになった。少々時間が掛かったが、無理矢理他の奴とも融合された身だったからね……さぁ、皆に向かって言うんだ――


(……何を)


 ――簡単だよ。この目の色は当たり前、常識だって……皆に向かって――


 他にやり方もないし、化け物が言うのならやってみるしかない。僕はざわめく人々に向かって、口を開く。


「皆……何を言っている? 僕はずっとこの目だっただろう? 当たり前のはずだよ……」


 僕はただ言っただけ。特別なことは何もしていない。魔法なんて使えない、使えるのは化け物の力のみ。若干、疑心暗鬼だった。ただ言うだけで、効果があるのかと思ったから。


「そうか、そうだな!」

「私達ったらどうしちまったのかねぇ?」

「王様の目は黄色くて当然じゃろ!」


(まさか……これが……)


 困惑と疑念を抱いていた彼らは、僕がそう言っただけで一転した。


 ――でも、子供とか酒を飲まない者には効かない。まぁ、大勢がそう言えばその者達も雰囲気に飲まれるだろうから、そこまでは心配しなくてもいいんじゃないかな。あぁ、それにしても……お腹が空いたな――


 僕は衝撃を受けた。ただ、言っただけだったのに。こんなにも簡単に、人の心を変えることが出来るものかと思った。


(この力さえ、あれば……フフ)


 思うがまま、掌握することが出来る。この国は本当の意味で僕の物になる。そして、父上のように尊敬される王に――。


(いや、駄目だ。父上は化け物の力なんて使わなくても……あんなにも敬われていた。だったら、僕だってきっと……!)

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