掌握せし力
―港 夕刻―
辿り着いた瞬間、大きな歓声が響いた。僕の姿を見て涙を流す者、手を取り合い喜んでいる者……皆、僕の無事帰還してきたことに安堵しているようだった。そんな心配しなくても、僕は死なないのに。
外の空気は心地いい。ずっと、興津大臣に部屋に閉じ込められていた。大怪我を負っているし、その化け物が暴れだした時に困ると。
(お腹が空いた……あぁ……)
周囲には沢山の人がいる。どれも汚らしく貧相な格好をしていて、肉としての価値も低そうだ。だが、この際空腹を感じなくて済むなら何でもいい。
船で用意された食事は、食べられなかった。化け物が目覚めてしまったので仕方がないが。このままでは美月まで餓死してしまう、早く何かを食べなければ。ご馳走が目の前に並べられているようなもの、自身を抑えることなどもう――。
「ねーねー、どうして王様は目が黄色いの?」
無邪気な子供の声が耳に入った。その声が、周囲に困惑をもたらした。
「言われてみれば確かに……」
「王族は初めて見たからのぉ……王族は皆、目が黄色いんかのぉ」
「えー?」
「でも写真とかでは……」
子供が純粋な質問をするまで、誰もその疑問を抱かなかったのだろうか。僕にとってこれは不都合なことだが、心配になった。国民がここまで馬鹿だとは思わなかったからだ。常識的に考えれば分かることだろう。まぁ、愚民だから仕方がないのかもしれない。
――こいつらを黙らせる方法がある――
体の奥から、また化け物の声が響く。
(何?)
――僕は、君のお陰で本体と同じ力を使えるようになった。少々時間が掛かったが、無理矢理他の奴とも融合された身だったからね……さぁ、皆に向かって言うんだ――
(……何を)
――簡単だよ。この目の色は当たり前、常識だって……皆に向かって――
他にやり方もないし、化け物が言うのならやってみるしかない。僕はざわめく人々に向かって、口を開く。
「皆……何を言っている? 僕はずっとこの目だっただろう? 当たり前のはずだよ……」
僕はただ言っただけ。特別なことは何もしていない。魔法なんて使えない、使えるのは化け物の力のみ。若干、疑心暗鬼だった。ただ言うだけで、効果があるのかと思ったから。
「そうか、そうだな!」
「私達ったらどうしちまったのかねぇ?」
「王様の目は黄色くて当然じゃろ!」
(まさか……これが……)
困惑と疑念を抱いていた彼らは、僕がそう言っただけで一転した。
――でも、子供とか酒を飲まない者には効かない。まぁ、大勢がそう言えばその者達も雰囲気に飲まれるだろうから、そこまでは心配しなくてもいいんじゃないかな。あぁ、それにしても……お腹が空いたな――
僕は衝撃を受けた。ただ、言っただけだったのに。こんなにも簡単に、人の心を変えることが出来るものかと思った。
(この力さえ、あれば……フフ)
思うがまま、掌握することが出来る。この国は本当の意味で僕の物になる。そして、父上のように尊敬される王に――。
(いや、駄目だ。父上は化け物の力なんて使わなくても……あんなにも敬われていた。だったら、僕だってきっと……!)