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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十四章 絶望の船旅
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愛する人を

―海上 朝―

 また、朝が来た。日が昇ったのは何度目だろうか。僕は、まだ丸太に掴まったまま漂流を続けている。上空をたまに鳥族や鳥が渡るが、僕には気付いてなどくれなかった。

 魔法を使えばどうにかなったかもしれないが、変に攻撃して敵として見なされてしまうのは困る。故に何も出来なかった。ここの鳥族達は噂では危険だと聞く、魔力が暴走している状態では絶対に駄目だと、初日は何もすることが出来なかったのだ。

 しかし、日付が経過しまともに食事をすることが出来ていない今、魔力を形成する力は皆無に等しい状態となり、自然的に暴走は収まっていた。


(眠たい、寒い……)


 空腹、寒さ、眠さ、あらゆることが僕を襲っていた。僕自身は空腹なら耐えられる。だが、美月はどうなる? 栄養を摂取することが出来なければ、美月は死んでしまう。

 だが、耐えられないのは寒さと眠さだ。骨の髄まで凍りついてしまいそうだし、目を閉じたらすぐにでも夢の世界に誘われてしまいそうだ。瞬きをすると、永遠に閉じていたくなる。


「僕はここにいる……」


 そして連日何も食さず、眠らず、寒さに震え続けていた僕の体はとっくに限界を超えていたようだった。海面が大きく揺れた時、もう僕には丸太に掴まり続ける余力など残ってはいなかった。

 木に掴まる蝉が死を迎えた時のように、僕はその丸太から滑り落ちた。もはや、暴れる気力もなかった。どうせ僕自身は助かる。何かしらの方法で、助かってしまうのだ。もうどうでも良くなっていた。考えはまとまらず、気力は果てていた。海水が無抵抗の僕に入り込む、海面を照らす日の光がどんどん遠くなって――。


「巽さん!」


 海水の中、はっきりとした人の声がした。その声には聞き覚えがあった。懐かしさ、いや愛おしさを感じた。


(でも、まさか……どうして?)


 海の中で人は話すことは出来ない。出来たとしても、水を飲み込んでしまって内容までは中々伝わらない。それなのに、はっきりと耳に届いた。そして、その人物は沈みゆく僕の体を背後から優しく包み込んだ。


「良かった……間に合って。巽さん、今助けてあげるから」


 その人物はいとも簡単に僕の体を持ちながら、海面へと上がった。そして、新鮮な空気が僕の体を満たす。


「琉歌? どうして君が……」


 理解出来なかった。何故なら、琉歌は病に苦しでいたからだ。治っていたとして、どうして彼女がここまで来ているのか、どうして海の中で話をすることが出来るのか。


「海なら陸にいる誰よりも移動出来るし、巽さんを見つけ出せる自信があったから。本当に無事で良かった……」


 琉歌は僕を抱き締めた。その時、琉歌の体の異変に気が付いた。


「その、体は……」


 琉歌の耳は魚のひれのように変化していた。その透き通るような青いひれは、彼女の持つ黒髪の美しさを引き立たせた。

 そして、上半身は胸を貝殻で隠している以外は露呈し、一部には鱗のようなものがあった。下半身はもはや人のものではなく、魚の尾びれになっていた。そう、琉歌の姿は人魚そのものであったのだ。

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