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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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子供の頃の秘密基地

–空き部屋 夕刻―

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 空き部屋の隅で、壁に寄りかかって息を必死に整える。だが、吸っても吐いても息苦しさは変わらない。呼吸をしているが、呼吸をしている感覚がない。

 瞬間移動と呼ばれるこの魔法は、自身の動く速度を倍以上にする。それに、呼吸機能などが追いつかず大体がこうなってしまう。いずれ、この魔法も禁じられる日がくるだろう。

 すっかり修復された窓から差し込む、沈みゆく微かな夕陽が作った僕の影が変化していくのを眺めながら、呼吸を落ち着かせた。


 そして、呼吸が落ち着いた頃には、僕の影は周囲の暗さと一体化した。


「はぁ……」


 僕は大きく息を吐いた。


 陸奥大臣は、ゴンザレスの稽古をつけてくれている。それを僕が頼んだから。もし、あそこで見つかってそのまま稽古に連れて行かれたら、戦い方の違いで即刻バレてしまうだろう。

 陸奥大臣は、昔僕の稽古をつけてくれた人だ。僕と同じくらい、いや僕以上に僕の戦い方や癖を理解しているだろう。ゴンザレスも然りだ。

 力加減とか見えないものを似せるのは難しい。それを陸奥大臣は簡単にやってのける。そんな繊細な技が出来る人に、僕の小細工など無意味だろう。この状態で、最も見つかってはいけない人だ。


「時間を無駄に過ごしてしまった……最悪だ」


 僕は、ゆっくりと壁に手をつきながら立ち上がる。何時間浪費したかは分からない。でも、そろそろ僕が心配される頃だろう。

 ちょうど夕食を小鳥が持ってきてくれる時間だろうから。


(また聞けなかったな、明日こそ)


 歌のことを聞けなかった。昼は聞く機会を逃し、夜はこっちで忙しい。


(多分、睦月は家族と最後の晩餐って所だろうし、東も最後の仕事って所だろうから、深夜くらいまで出てこないだろうけど。多分、あそこを使って出て行くだろう。今の内にそっちに移動しておくか。二人まとめて説得出来るし)


 僕は大きな音が出ないように、窓をゆっくりと開けてそこから飛び降りた。飛び降りる最中に窓をしっかりと閉めて、地面に着地した。


「よし……行くか」


 僕の目的地は、城の外へと続く怪しげな道だ。


 壁を破壊し、城の後ろに騒めく森を通り街へと向かう道。

 僕らが皆子供だった頃、外の世界に興味を持った睦月と美月が勝手に作った道。

 人が近づきたがらない場所に、こっそり作られた道。

 監視の目が行き届かない場所に、分かりにくく作られた道。

 子供にしか見えない、大人になれば見えにくいそんな道。


 そこは、美月が見つけた場所でそこを壊して通れるように道にしたのが睦月らしい。それを僕らは、その周囲の場所と道も含めて秘密基地と呼んだ。僕は、見つかったら怒られるのが怖くて行けなかったが、二人は頻繁に遊びに行っていた。

 言うなればお忍び。変装をしっかりして、ちゃっかり買い物もして帰ってきていたのは、よく覚えている。

 美月は僕の事を「弱虫チキン」と馬鹿にしたけど、睦月は「巽が正しいのよ」と言った。ちなみに、ちきんの意味は未だに分からない。

 今抜け道は、もう二人には必要ない。だから当然使ってはいないみたいだ。


(いつか、皐月や閏があそこを見つけたら二人はどうするかな? 睦月達みたいに飛び出して行くだろうか? それとも僕みたいに……)


「ここにいたのかゴンザレス!!」


 会ってはいけない人物が、いつの間にか僕の目の前に立っていた。


「あ」

「説教をたっぷりとしてやりたい所だが、今はそれどころではない」


(え……?)


「巽様と睦月様と睦月様専属の使用人の東が行方不明だ。捜索を……おい! 待て! どこに行く!」


(そんな……もう行ってしまったのか!? 本当に、勝手だ。全てを放り捨てて……!)


 僕は、気が付いたら必死に走っていた。陸奥大臣の声が一瞬で遠くに行ってしまった。それだけ必死に走ったのだ。

 魔法を使えばバレてしまうだろうから、自身の最大限の足の速さを生かすしかない。足の速さくらいなら、そんなには変わらないだろう。

 息が切れるのも、足が痛いのも忘れて、無我夢中に走り続けた。

 何人もの捜索する使用人や武者達に出会ったが、その間を擦り抜けた。そんなことを繰り返していた間に、ようやく目的地に辿り着いた。だが、そこは真っ暗だ。使われていない建物と建物との間に囲まれて不気味な場所。

 そこのさらに不気味な場所、建物の裏にそれはある。子供の時は簡単に通れそうだったが、今は少しキツイかもしれない。瞬間移動を少し前に使ったせいもあって、かなりしんどかったがそれどころではない。

 僕は、秘密基地へと向かった。

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