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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十四章 絶望の船旅
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希望はこの手をすり抜けて

―海上 昼―

「巽様!」


 投げ出され、海へと体が落ちていくその瞬間、僕は声を聞いた。


「小鳥……」


 壊れゆく船から届くはずもない手を伸ばしている人影、それは未来の世界から開かずの扉を開けて現れた大人の小鳥。

 僕もその手を掴もうと、届く訳もないのに反射的にこの手を伸ばしてしまった。すると、僕の手から小鳥に向かって火風が発生した。


「……っ!」


 僕に攻撃の意思があった訳ではない。僕はその届くはずもない希望を掴もうとしただけだった。奇跡が起こるかもしれない、そう思ってしまったから。

 でも、その奇跡は起こらなかった。結果的に彼女はその風によって、遠くへと飛ばされてしまった。そして、全てを失った僕はついに海へと叩きつけられた。それなりの高さから落ちたのだが、体に痛みはなかった。何故なら――。


(これがあったから……奇跡起こらなかったのかな。いや、元々起こる確率のない物を奇跡とは言わない)


 叩きつけられ、水飛沫と共に結界の破片が散っていったから。今まで数々の衝撃から僕を守ってくれた存在、それがついになくなった。体が海の奥底へと誘われる。

 水は冷たく、容赦なく僕の体に入り込んでくる。体の自由はきかない。息苦しい。人という生き物は不思議な物で本能的に死を恐れてしまうらしい、生きようと必死に、空気を得ようとしてしまうらしい。僕は浮かび上がろうと、必死に体を動かしてしまっていた。しかし、泳ぐことも出来ない僕では無意味に等しかった。


(琉歌……)


 愛する人の顔が浮かんだ。病に倒れ、一緒に来ることはなかった婚約者。彼女は今どうしているだろうか、元気になっているだろうか。人の心配などしている暇がないことは重々承知している。それでも、彼女のことが心配でならなかった。

 知らない地の知らない海に投げ出され、例え生き長らえたとしても、僕を知る人間が僕を見つけてくれるとは限らない。もしかしたら、もう二度と琉歌には――。


 体が沈みゆく中、突如海面が暗くなった。何かが浮いている。もしかしたら、船の瓦礫かもしれない。僕は、気がつけばそれに掴まろうと必死にあがいていた。無駄な行為である、そんなことは分かっていたのに。

 しかし、奇跡は起こる。最後の足掻きに疲れ、力を失った時だった。フワッと体が浮いたのだ。僕の体はそのまま海面へと上がっていく。


(浮いた?)


 外の空気へと触れた。僕は枯渇していた空気を新たに体内に一気に吸い込む。そして、浮いていた長い木の棒に掴まった。船の瓦礫か、それとも元々この海にあった漂流物だろうか。


「はぁぁっ……!」


 僕は、横目に船を見た。


「本当に僕があれを……」


 絢爛豪華な客船だったそれは見る影もない。船の内部は剥き出しになり、なんとか船として認識出来る程度であった。相当に強靭な素材で作られていたはずなのに、僕が起こした竜巻が破壊してしまった。いつの間にか、竜巻は消えていた。

 しかし、まだ僕の中で暴走している魔力はそのままであることが伝わってくる。このまま魔法を使えば、とんでもないことが起きてしまいかねない。魔力が落ち着かないままでは、何も出来そうにもない。ここで助けが来るか来ないかを待つだけ。どうせ死ねない。濡れた体が風に吹かれて、寒さを感じた。いつまでこのままなのか、それを考えるだけで絶望だった。

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