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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十四章 絶望の船旅
288/403

増大し破壊せし力

―船内 昼―

「本当に申し訳ございません! 本当にお怪我がなくて良かったです……」


 ラヴィさんは穴を上がっても、僕の腕を摩りながら何度もそう言い続けた。


「全然問題ないですから。それより……」


 やはり気になるのはあのクトールのことだ。クトールの言うことを信じれば、彼? はずっとここにいたことになる。百年以上前から。となれば、この船も……。


「……見られてしまった限り、言い逃れも誤魔化しも通用しないですかね。私の分かる範囲内でしたら、お答えしますよ」


 ラヴィさんは諦め口調で言った。


「あの龍はどうしてこの船に?」

「あの龍は、かつて米大陸で智を司る存在として崇められておりました。しかし、魔法を捨てることを決意した当時の人々にとって魔力の塊であるクトールは厄介な存在でありました。ですから、当時の大統領が研究材料として使い道がなくなった後封印したのです。巽様が宿泊されていた部屋よりも深層に。龍の封印されている場所だけをそのままにしながら、今もこの船に閉じ込めているのです。あの空間は例え何があっても壊れることはありません。我々の、いえ我が母の技術の結晶です。そして、人間では歴代大統領のみが知る秘密です……」


 智を司る、それはかなりしっくりときた。知識量だけは僕の知る人々を圧倒している。ただ、それを話したいという気があり過ぎるせいで話がやたら長いが。ただ誰かに疎まれたりするような性格の持ち主ではないようだ。

 僕らの国の龍の像はとても悪い。海外と日本の龍の違いでもあるのだろうか。それとも、クトールが龍の中では変わり者だったのだろうか。それは僕にも、恐らくラヴィさんにも分からないことだろう。


「……そうですか」

「不注意でありました。見回り後に鍵閉めをきちんとやっていなかったとは……下が芝であるとはいえ、常人であれば致命傷になりかねない高さでしたよ」


(確かによく分からない機械で上がってみたら、結構高さがあったな)


 しかし、僕には血一滴もかすり傷一つついてなどいない。これは、恐らく小鳥が僕に張った結界のお陰だろう。かすり傷一つつかないなど、より強固な結界を僕に張ったのかもしれない。あの爆発事故をどこかで見ていて、猛省したのだと僕は推測する。


「奇跡……かもしれません。ハハ」

「奇跡なんてものじゃありませんよ。例え、あの穴で無事だったとしても、それからの道のりで様々な仕掛けがあるのです。あの龍に力の源を与える訳にはいかないので……そうなってしまうくらいなら、消して構わないそんな命令が下っています。そんな船に貴方を乗せることに抵抗がありました。ですが……組織の人間が狙っている以上、そうするしかなかったのです。最悪、そこに落とせば……結果として全て無意味でしたが」

「仕掛け? そんなのあったんですか?」


 壁に沿って何とか歩いていたが、暗闇で本当に何も見えなかった。知らない間に何かが起こっていて、知らない間に結界に守られていたと考える方が妥当だろう。自身の身に何が起こっていたのか、あまり考えたくないことだ。殺すつもりの仕掛けならば、それは並大抵の外傷で済むものではないだろう。


「貴方本当に不思議な人ですね、巽様。興味深い――」


 ラヴィさんの話す声が小さくなった。いや、違う。これはきっと僕のせい。何故なら彼はまだ普通に話している。視界が歪む、音がどんどん遠くなっていく。

 それと同時に、僕の中で微かになっていた魔力の気配を感じた。それはどんどん増大していく。異常なほど、僕が危機感を覚えるほど。


「っ!」


 僕はそれを必死に抑え込もうとした。


「逃げ――」


 だが、僕の中で増大した魔力はその制御さえも破壊した。ラヴィさんを巻き込んでしまう、それを咄嗟に思った僕は、ラヴィさんに逃げるように言おうとした。

 しかし、それを言う前に突如発生した竜巻が僕の言葉を遮った。石造りの柱を、床を剥ぐように破壊していく。ラヴィさんも、もう僕の目の前にはいない。どこかに吹き飛んでしまったのだ。一度発生した竜巻は、僕の手の中に収まることはなかった。


「う゛あ゛あ゛っ!」


 瓦礫を巻き込み、威力も増大した竜巻はついに僕をさらった。そして、そのまま――――海へと投げ出された。

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