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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十四章 絶望の船旅
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何もない人間と龍

―船内 朝―

「僕は宝生巽です。穴に落ちて、それからここに……」

「宝生……どこかで聞いた名だね。かつて私が竜神として崇められていた時、多くの話を聞かせて貰ったものだ。その時に聞いた海外の島の小さな国の話だったかな。あぁ、懐かしいな。それを話してくれたのは……あぁ、そうだ! 旅人のコロンだ! 鎖国が終わり、倒幕された後に彼はその島に行ったらしいんだ。その島には元々沢山の国があって、それをまとめてたのが幕府らしいんだ。でも、時代の流れには抗えなかったみたいでね、それで――」


 僕の発した言葉は僅かであったのだが、それだけの情報量で龍はここまで話を広げた。

 僕の苗字だけで、ここまで話し続けることが出来るのは尊敬に値する。ただ、今この状況で話されてしまうのは辛い。この龍の話はどうも眠たくなるのだ。


「あの……お話の所悪いんですが、ここはどこですか?」

「……あ~すまない、嬉し過ぎてつい。私の話ばかりしてしまって。それで、巽よ。ここがどこだという質問だが、それは私が聞きたいくらいだよ。私が知っているのは、先ほど言った通り。海の上、船の中。お前が生まれるずっと前からここに閉じ込められている。私はここから動けないんだよ。人間から話を聞くことが出来ない限り、私の力は完全には蘇らない。お前との会話をそうだなぁ……百年近く続けるか、百人くらいと仲良く話すか。まぁ、それだけの人数がここに来ることなんてないが」


(つまり、よく知らないってことだよね)


「そうですか……ここから僕は出られないんですか?」

「それを出られない私に聞くなんて愚問ではないか? 龍の私がここから出るには力完全に取り戻し、封印を断ち切らなくてはね。本来、封印に人間が触れると、もれなく消失するのだが……奇跡か必然か。まぁ、どちらでもいいよ。どうせ、私自身はここから出ることは出来ないし。まぁ、お前が出る方法を考えるのなら来た道を戻ることだろう。それくらしかあるまい。ここはここで行き止まりだ。帰りたくば、帰れば良い」


 龍の声色は少し暗くなった。そして尾を一度強く叩きつけ、大きな揺れを起こした。


「穴が深すぎて、帰ることが出来ないんです……」


 魔法がなければ、武器がなければ、僕は無力そのものだ。閃きを得る頭脳もないし、超人的な身体能力もなく、穴を登っていけるはずもない。

 あまりに、僕は頼り過ぎたのかもしれない。当たり前にあるものにすがり過ぎたのかもしれない。このような時に対応出来ない。魔力がなければ僕は何もない人間なのだ。弱く、脆い。


「ふむ……まぁ、お前は恐らく客人であろう。ならば、客人のお前をもてなす必要のある者達が必ず来る。そう恐れるな。私はただお前と話がしたいだけなのだ。話すことを奪われる……それが私の力の源であり、生きがいであるのに。それを、奪われれば私は無力そのもの。巨体を持っているだけの存在だ。私はそれを認め、受け入れよう。それを恐れなかった、それを利用した人間達は優秀だな。人間でない彼らを生み出したのも、また人間。人間とは恐ろしい生き物だよ。恐ろしい故に、人間がこの地を支配するのだろうな。いつか彼らが来る、それまでの間だけ楽しもうぞ」


 龍は手を優しく僕の頭に置いた。その手から感じる温かさに、僕は何故か懐かしさを覚えた。

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