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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十四章 絶望の船旅
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饒舌な龍

―船内 朝―

 壁に沿って、闇の中を当てもなく彷徨い続けていた。進めど進めど闇は終わらない。後ろを振り返ってみるが、もうあの微かな光はもう見えない。四方八方は闇に包まれている。

 何も光がないと、本当に何も見えない。大人ながら情けないが、孤独と恐怖を感じている。


(もし、誰もここに気付いてくれなかったら……そんなはずないよね。あんなに大穴出来てるんだし、この船の人達なんだから異変くらいは感じてくれるよね。僕が、いなくなったことも気付いてくれるよね)


 すると、僕が進む闇の向こうから何かが強く叩きつけられる音がした。それによって、この空間が大きく揺れた。その揺れの原因はすぐ近くにある、そう感じた。

 少しして、その揺れは収まった。そして、それと同時に闇の向こうから、とてもつなく大きく不気味でどちらともとれない中性的な声が響いた。


「こちらへおいで」

「え? 誰?」


 闇の向こうから響いた不気味な声、音、それらを含めた全ての状況を理解する前に事は起こる。突如、僕の腹部に縄、いやそれ以上に太い何かが絡みつく感覚があった。それが何であるのか、何も見えない為分からない。だが、僕の体は絡みついた何かによってそのまま闇へと引きずり込まれた。


「ああああああ!?」


 体感的に感じる速度は、箒に乗っている時と同じくらいであった。風を切り、勢いをとめることのないままそのまま進む。

 視覚的情報に今まで当然のように頼ってきた為、それを突如として断ち切られた時の心の整理がつかない。


(何が起こってるんだよ!? 何なんだよ、これは!?)


 絡みついたそれを引き離そうと体を動かすが、それはびくともしない。動こうとすると、むしろどんどん僕を絞める力が強くなっていく。胸も締めつけられて、息が苦しくなる。


「話をしたいだけ……ここは退屈。話し相手を奪われる……まさに地獄。いつぶりかな、ここに人間が来たのは」


 その大きな不気味な声はどこか嬉しそうに、そして悲しそうに響いた。


「まさか、ここまで生きてくる輩が現れるとは……お前は一体何者だ? 嗚呼、お前のことが知りたい。もっと知りたい。話したい、話を聞かせておくれ!」


 突如、体への締めつけがなくなり僕の体は解放された。


「はぁ……はぁ……」


 胸いっぱいに空気を吸い込むことが出来た。それだけで、幸福に満たされる。ただ、そこで僕はあることに気付く。


「手が見える……」


 自身の手が見えた。光がどこかにあるのだ。その光を探して見上げると光より先に、ある存在が目に入った。


「龍!?」


 僕を、牙を剥き出しにしたままの龍が見下ろしていたのだ。


「なぁ、どうやってここまで生きて来れたんだ? お前は人間だな? あぁ、人間特有のいい匂い。人間と話せるのはひさしぶりだ! 最後に会話をしたのは、私がここに閉じ込められた時だったんだ。あれからどれくらい経った? ここにいるのは、人間以外の者ばかりでつまらなかった。ここが海の上で、これが人間の作った船であることも理解している。退屈過ぎると考える時間は無駄に多くてね。音とか動きとか……最初ここに来た時に気付けなかったのかって? それは、眠ったままここに連れて来られてしまったからだよ。目覚めは良かったんだけどねぇ。人間も酷いものだよ。折角協力してあげたのに、協力すると分かっただけで掌返しが凄くて。そりゃもう雑に、やりたいがままにされてね。私の力の一部を人間に移植することまでやってのけてたよ。あ、そうそうお前みたいな髪色で少年だったよ。あっちこっち傷だらけでね。話をすると、私の力が強くなってしまうから何も教えて貰えなかったが……彼はもう死んだのかな? 龍の力を持った人間ってどうなるのかな? 彼とも話がしたかったよ。あぁ、それで――」


 今まで抱いていた恐怖の感情が、彼の長話を聞いただけで全て吹き飛んだ。饒舌に龍は話し続けている。話はどんどんと横道を逸れていく。話の途中で何度か僕に質問をしてきているが、それに答える隙はない。


(なんだか眠たくなって来ちゃったな……)


 目の前にいるのはあの恐ろしき龍なのだが、話している内容はあまりにもつまらないし終わりも見えない。まるで子守歌だ。子供の時にあった城での授業、それを彷彿とさせる。


「――私には弟達がいてね。何番目かは忘れたが出来の悪い弟がいた。自身の欠点を欠点と認めない、それでいて傲慢な奴だった。兄弟の中で最も疎まれていたよ。思わないかい? 自身の欠点……弱さを弱さだと認められない者は愚かだと」


(龍の兄弟……それって……)


「すまない。人と話すのがひさしぶりで話し過ぎてしまったよ。自己紹介が遅れたね。私は見ての通り龍だ。クトールと呼ばれていた。ま、本来の名など忘れてしまったが……さ、今度はお前のことを教えてくれ」


 ある程度、自身の話をして満足したのか、龍は今度は僕に話をするように促した。話さなければ何をされてしまうか分からない。僕は恐る恐る口を開いた。

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