美味か苦味か
―船内 朝―
朝早く、僕はクリフ達に見送られながら米国を後にした。様々な失態をかましたが、無事使命は達成することが出来たと言えるだろう。
母上に、僕のとんでもない言動を報告されてしまった可能性があるのが少し気にかかる。咎められるか、変な目で見られるか、その両方か。なんにせよ、最悪であることに変わりない。これが最大の罰だ。
「はぁ……」
「ため息なんてついて、どうしちゃったんですか」
食事が運び込まれるのを待つ中、朝からため息をつく僕をラヴィさんは心配してくれたようだ。僕がもう部屋に籠る必要がない理由は、ラヴィさんの防護なんとかが更新されたかららしい。
彼は翻訳機能に特化している機械のようだが、それ以外のことも出来るらしい。故に他国から来た客人を船で輸送する時は、器用に様々なことが出来る彼が重宝されているとのことだ。
「憂鬱なんですよ……内面にあることを知られるなんて……母上に……」
「寧々様がそれを望んだようでございまして……本来ならば対話でするべきだったのでしょうが、大統領がそれが億劫であると。不具合が、ちょうどいい具合に作用する催眠AIを使用することに。大統領に代わって、私が謝罪させて頂きます。誠に申し訳ございません」
ラヴィさんは頭を下げた。
「いや、ラヴィさんが謝ることでは……精神に簡単に介入されてしまう僕が悪いのです」
「巽様……」
その声は僕を悲しむような、憐れむようなものだった。
「●◆×▼◆~!」
そんな話をしていると、真っ白な服を着た男性が料理を持って来た。そして、料理が盛られた皿を机に置いた。
「おぉ、これはこれは中々美味しそうです」
「●◆×▼!」
「▼◆××●●」
「●◆××!」
「……あの、彼はなんと?」
僕がそう問うと、ラヴィさんはハッとした表情を浮かべた。
「あぁ、すみませんすみません。この朝食には、巽様から頂いた調味料を使用しているそうですよ」
「調味料? あぁ」
米国に行く前、僕は興津大臣から大きな瓶に入った透明な特製調味料を渡すよう頼まれたのだ。彼女特製の物が、美味しいかどうかは正直微妙だ。まさか、僕の食べる料理に使用されてしまうとは。
「大丈夫です、毒は入ってませんよ。彼らが、ちゃんと食事をしてますから」
「味とか分かるんですか?」
「味は関係ないからですね……でも、彼らも彼らの役目は全うする能力があります。つまり、味に間違いはないということです。安心して食べて下さい」
(そうは言われてもなぁ……でも、食べないといけないし)
僕は決心して、盛られた料理を自身の皿へと移す。
「これ全部に、その調味料使ってるんですか?」
「どうなのでしょう、聞いてみます……●▼×◆×●●?」
「●◆×▼×〇〇」
「なんて?」
「折角なので、ふんだんに使用したみたいです!」
「おぉ……」
感じる所、見た目も匂いも申し分ない。問題は味だ。毒が入ってなどいなくとも、その調味料によって大変なことになってしまっている可能性があるだろう。彼らに味は関係ない。彼らの腕を持ってしても、どうにもなっていない可能性も――。
「……美味しい」
恐る恐る食べたそれは、とても美味しかった。絶品だった。元々の素材の味、加えられた調味料の味。それらが全てが、絶妙な味の重なりを演出している。これなら、いくらでも食べることが出来そうだった。
「良かったです! ●◆×!」
ラヴィさんが白い服を着た彼に嬉しそうに報告すると、その彼も喜びを全面に出した表情を浮かべた。
「●◆▼××◆×!」
「もっと食べて下さい、だそうですよ!」
本当に美味しかった。この上、かつてないほどの美味。胃袋が異常に、大きくなってしまったように錯覚してしまう。食べだすととまらない。結局、僕は必要以上の食事をしてしまった。