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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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夢は覚めるから

―離れ前 夕刻―

(大した問題もなく辿り着いたな)


 ここに来るまで、かなりの人数とすれ違ったが、誰も僕がゴンザレスではないということに気付かなかった。話しかけられたと思ったら挨拶程度だったし、適当にゴンザレスっぽく返しておいた。


(さてと睦月達は……あ、いた)


 やはり睦月と東は、和風庭園の中にある離れで刺身を食べていた。かなり戯れながら食事を楽しんでいるようだ。

 僕と二人の距離は、木などが沢山あるとはいえそんなに離れていない。だが、二人は多分夢中で僕が見えてない。と言うより、二人の中では自分達以外消えてるんだろう。


「あ~ん! 美味ですわよ~おほほ~」

「美味しいなぁ! 睦月もあ~ん!」


 恋人同士そのものの会話の内容も聞こえてくる。どうやら二人の時は普通に会話をしているようだ。


(絶対、皆この二人の関係気付いてるだろ。今まではやけに仲が良いなぁとは思ってたけど)


 僕はあの露骨な最後の言葉から、それが禁断の愛にまで発展していることにやっと分かったのだ。


(滑稽だな……僕は)


 年齢が同じくらいでずっと一緒にいて息も合う。二人がこんな関係になったのは、結構前からなのだろう。

 気付くだけで、物の見え方がこんなにも変わるとは思いもしなかった。


(きっとこのこと以外にも、他の人と見え方が違っていることあるんだろうな。なんで気付けないんだろう。やっぱり僕が人として未熟だからかな。大人にもなって情けない……ってこんなことはいいんだ。二人を説得するために場違いを覚悟で……)


「あのさ、君はいいのかい?」


 東が急に箸を止め、俯きながら言った。


「……今更、嫌だなんて言わないわ!」


 睦月も食べるのを止め、東の方を見ながら言った。


「でもこの国にも、君のご家族にも……巽様にも、君の婚約者にも、全てに迷惑をかけてしまう。それだけじゃない……君は全てを失ってしまう。命だって狙われるかもしれない。そうしたら俺は、俺は君を守れるのか? あらゆる脅威から……」


 東は震えていた。今から自分達がすることを考えれば当然だろう。

 すると睦月は、東の手を取って強く握った。


「これは不倫だし、絶対的にうちらが間違ってるのも分かってる。心が痛くなるくらい。でも、でも! この踏み外した道でも東がこうやっていてくれるなら、うちは怖くない! 東とじゃなきゃ、うちはもうどこにも進めないの!」


 東を元気づけるように、明るく元気に喋る。お陰で、僕には余計よく聞こえる。


「ごめん、俺から言っといて。夢が現実になるって思ったらさ……何か色々怖くなってきちゃって、駄目だな」


 ようやく、東は睦月の方を向いた。


「駄目じゃないよ! だって人間だもん! 怖くなったり、不安になったりするのは当たり前なの!」


 夢が現実になると怖くなる。その言葉が僕の中で何度も再生される。


(夢は、夢のままだから幸せなんだ。夢はいい所しか見れないから悪い所が見えるようになった時、人は夢から覚めるんだ。揺らぐんだ。不安定になる。うん、やっぱり、説得をちゃんとした方が二人のためだ。現に一人、夢から覚めたようだしね)


 相変わらず二人は、僕には気付いていないようだ。話しかけようと一歩進んだ時だ。


「ゴンザレス! ゴンザレスはどこにいる!? 稽古をサボるとはいい度胸だ!」


 陸奥大臣の大きな声が響き渡る。


(まずい! こっちに近付いて来てる! 流石に戦い方までは誤魔化せる自信がない……そうだ! かなり疲れるが、やむを得ない)


 僕は俗に言う瞬間移動を使用し、慌てて僕がよくおじさんと会っていたあの場所へと避難した。

***

ー? 離れ前 夕刻ー

「相変わらず大きな声だなぁ、陸奥様は。それにしても、ゴンザレス様はどうしたのかな」

「ん~……」

「あれ? どうしたんだい?」

「さっき一瞬あの木の陰に誰かいたような……」

「まさか! いたら、今頃俺達の会話全部聞かれて、連れて行かれてるか、騒がれるかのどっちかだと思うよ。この距離だしね、聞こえてもおかしくない。でも、な~んともないから気のせいさ」

「そうね! 気にし過ぎね! よし、また食べましょ! はい、あ~ん!」

「あ~ん」

「ゴンザレスーーーー! 隠れていないで出て来い!」


 分かりやすい二人は、最後に鈍い彼に分からせて、そのことに気付かぬまま道を外れて行く。

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