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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十三章 海の向こうの国へ
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落ち着かない夜に

―街 夜―

 車に乗せられ、ラヴィさんと夜の街へと向かった。今回はゆっくりとした運転だった。お陰で酔うことはなかった。クリフは先に目的地に行っている。

 車から降りると、やはり多くの人々がいた。夜の灯りと電子的な光で目が痛い。目の前には大きな建物があった。灯りを頼りに見ると、表面だけがガラス張りでそれ以外の壁は真っ白だ。これは窓的な感じなのだろうか。昼頃に見た高くて巨大な建物とは全く姿形も異なる。その窓から通して感じる、橙路の光は温かそうだ。


「さ、こっちですよ」


 ラヴィさんは僕を先導し、その建物へと向かっていく。目的地はここであるらしい。僕は周囲の様子を見ながら、彼について行った。夜の街がこんなにも明るいなんて驚きだ。

 城下に灯りがない訳ではないが、やはり明るさが桁違いであるように思う。遥か遠くまで見通すことが出来る。夜の闇と対照的で美しく感じた。空の黒ささえも、街の光が飲み込んでいる。


(空……ここにも、星ってあるのかな)

 

 しかし、星は一切見えなかった。ここには、星が存在しないのだろうか。ゴンザレスから教えて貰った星という概念。僕は、それを聞くまでは星を空の電気だと学んでいた。それが、この世界の共通認識であるはずだ。


「どうしました?」


 ラヴィさんは、立ち止まって空を眺める僕を不思議に思ったのか、首を傾げてこちらを見つめている。


「星……見えないんですね」


 僕は世界共通認識であるか否かを確認するため、あえて星と言った。


「ほし? 物干しですか? それが空にあるんですか? 私に教えて下さい。自国あるもので知らないことがまだあるとは……物干しって空にも存在するんですね!?」


 ラヴィさんは、嬉しそうに空を見上げる。


(そうだよね。やっぱり星は皆知らないよね。だって、あるのはただの電気なんだから)


「電気です、電気。星なんて言ってないですよ。ここでは電気って見えないんですか?」


 これ以上、言った所で僕が馬鹿だと思われてしまうだけだ。異世界からもう一人が現れて、そこであれが電気じゃなくて星だと聞いたなんて言っても信じてなど貰えるはずがない。


「え? 私の聞き間違いでしたか? それはすみません。空の電気のことですかね? ここでは見えないですよ。街の光があり過ぎるせいですよ。田舎の方でも行けば、沢山見えますよ。でも、どうして急に?」

「綺麗じゃないですか?」

「……そうですか? あまり真剣に見たことがないもので」


 ラヴィさんは申し訳なさそうに笑った。しかし、彼がそう言うのは当然だ。僕だって空の電気をそんなにまじまじと見つめたことはなかった。

 星という概念を教わって初めて真剣に見るようになった。美しいと感じるようになった。電気という響きと星という響き、それだけで大分感じが違うものだ。


「ハハ……そうですよね」

「言われてみれば少し綺麗かなぁとも思ったりもしますけど……でも、電気ですからねぇ。あ、別に巽様を否定している訳ではないんですよ。本当に」


 突然、彼は焦りだした。


「大丈夫ですよ。それより、中に入りましょう。ここだと色々な人に見られて落ち着かないので」


 こうしている間にも、人々は僕らを見つめている。そして、撮影機を回し続ける。鬱陶しいし、恥ずかしい。


「分かりました」


 ラヴィさんは微笑むと、再び歩き出した。僕はそれについて行く。こんなにも落ち着かない夜は初めてかもしれない。そう思った。

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