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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十三章 海の向こうの国へ
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支援

―ホワイトハウス 夜―

『ようやくお目覚めか……』


 クリフは、本を閉じて横にあった机の上に本を置いた。立ち上がり、僕の寝ているベットの脇にまで来た。


「どうしてあんなことを?」


 まず一つ言いたいことはそれだった。母上の要件とそれが一致する理由が分からない。それに、どうやら本気でなかったようだ。


『巽の内なる影を見る必要があってね』

「母上に頼まれたの?」


 僕がそう言うと、目を見開いた。


『おぉ、覚えてるんだ?』

「はっきりと覚えてるよ」

『なるほど。改良した分、記憶障害は起こらなくなったか……では、もう隠しても意味はないか。巽の影さえ聞けば良かったのだ』

「自分が殺されてしまう危険を冒しても?」


 僕がそう言うと、クリフは微笑みを浮かべた。


『それくらいの覚悟なければ、ね。それに、身を守る最大の手段を私は持っている。どうあがいても、私一人を相手にすることは出来ない。常に何十体もの機械に勝利し、やっと私に危害を与えることが出来るのだよ。それにしても驚いたな……巽の発言には。今までも何人かの者達に試しにやってみたが、あそこまでのことを言う者はいなかったよ。あの催眠術は、まだ完全に完成している訳ではない。故に、巽のようになってしまう。それを利用したのだ。改良によって、一部だけ不具合が直るとは予想外だったが。まぁ、これで寧々の疑問は解決だ』


 彼は長々と言った。


「母上……」


 僕のあの状態で言った発言は、もう母上に伝えられてしまったのだろうか。僕は知らぬ内に、母上に心配させ疑念を持たせてしまったようだった。既に伝わっているのだとしたら、僕は帰った時どうすればいいのだろう。後処理に追われる皆に合わせる顔がない。反省していない、と思われてしまうのではないだろうか。


『巽が時に殺意を含んだ目を見せることがあると。それがしばらく続いて、戦争が起こったと』


(知ってる!?)


 僕はどうやら、また表情に出してしまったようだ。


『いくら離れていても多少の情報は手に入る。それを聞いた時、私は考えた。復興の支援をすると、ね。寧々を通してそれを提案した』

「え!? 支援!?」


 今、僕の国は非常に危機を背負っている。財源の四割を占める吉原が半焼し営業が出来ない状態にあること、武者達への戦争手当……支出はいくらでもある。

 しかし、収入は限りある。相当に危険な状況だ。もし、このまま上手く立て直すことが出来なければ、国民に重税を課さなくてはならなくなるだろう。だが、税が高いと不満が多い。そうでもしなければやっていけぬのに、その手段は様々な危険が伴う。


『フフ、ただ事前にそれを巽に知らせる訳にはいかなかった。色々と考えを巡らされても困るしな。今、ここで巽自身の意見を聞きたい。支援を求めるのか、求めぬのか……これが私の要件』

「支援して貰えるのなら……それを望むよ。僕の浅はかな考えで皆を巻き込んだ。国が……圧迫されていく。皆を救うのに、国の務めを果たす為にはどうしてもお金が必要だ。だけど、国は国民にそのお金を貰うしかない。結果として、圧迫していく。でも、他国から支援して貰えるのであればそれはない。いずれ、安定した時にそれを返せば……」

『返済の必要はない』

「まさか……そんな」

『ただし、一つ条件がある』


 彼は、おもむろに懐から真っ黒な四角い物を取り出した。それは箱と呼ぶには薄過ぎるし、小さ過ぎる。そして、彼はそれに触れた。彼の黒い服が少し明るく照らされた。

 それを僕の方へ向けた。それの出す光は、とても眩しく痛かった。思わず目を瞑ってしまった。


『ハハハハ、こうでもしないと老いぼれには全く見えないのだ。これを見よ』


 目をすぼめ、そこに映し出された情報を読み取ることにした。


(しんどいな……なんて書いてあるんだ?)


 それもまた日本語であった。事前に準備していたということか。しかし、全て平仮名だ。それによって少し読み辛い。


(ひこうき……発明した? ひこうき?)


 飛行と機械を組み合わせたとのだろうか。ということは、飛行する機械。


「ひこうきって何ですか?」

『空を飛行し、移動の時間を減らすものだ。だが、我々はそれを使うことが出来ない。理由は鳥族の縄張り意識が異常に強いからだ。彼らは独自の国家を形成し、上空を支配している。だが、不思議なことに日本付近の鳥族は人間との交流も深く、理解もある。空を自由に旅することが出来るのだろう? 魔法という手段を使って。それには、力を必要とするだろう? しかし、飛行機はそうではない。技術で空を飛ぶのだ。力は必要ない、いるのは燃料と操縦する者だけだ』


 彼は自信満々にそう説明した。ひこうきと呼ばれるそれは、空を飛ぶことで役目を果たすらしい。

 彼らはそれを作ったようだが、鳥族との縄張り意識によってそれを使うことが出来ないらしい。つまり、宝の持ち腐れだ。


「燃料と操縦者がいるの? でも、僕の国にそれを扱える人はいないし、燃料もあるとは……」

『心配するな。操縦者はAIだ。燃料は水。最高だろう? 我々はそれをそちらの国に譲る。そして、巽はそれを他国へと売却する。それによって得た利益の七割を、我が国へと払って貰う。それでどうだ?』

「支援して貰える金額はいくらですか?」

『フフ、武蔵国の国家予算程度ならいいだろう。勿論、支援の金額はこれ一度きりだ』


 支援と利益は別であるようだ。国家予算分まで貰えてしまう、それも一度に。国は小さいとはいえ、予算はとんでもない金額になっている。それを一括で払うことが出来るなんて、彼の国は豊か過ぎる。


「分かった……その条件を飲もう」


 僕がそう答えると、彼は今までの薄ら笑いとは違い、満面の笑みを浮かべた。


『理解のある王で良かったよ……フフ。面倒な手続きはAIにでも任せて、そろそろ本当のもてなしをさせて貰うよ。無礼なことをしてしまったお詫びの気持ちも込めてね。寧々から聞いていただろう。元々はそれが寧々の願いであったが、色々あったようだからな。こんな難しいことは忘れて、巽だけでも楽しむといい』

「クリフは行かないの?」

『行くさ……ただ私はあまり好きではないね。良さが分からない。あんな綺麗な物語は現実では絶対にありえないからな。それに演者が皆、AIだ。高が知れてるよ』


 彼はどうも機械である者達を、軽蔑し差別しているように見える。彼の周りにいた、ほとんどの者達は機械であるはずなのに。

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