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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十三章 海の向こうの国へ
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仕組まれた人生を直視する

―ホワイトハウス 夜―

「――もう、こんなことに使わないで。誰かを傷付けるために彼らを作り出した訳じゃない」

『黙れ。お前が私の望む物を開発しようとしないから、目的外の使い方をするしかないんだ』


 言い争う男女の声に目を覚ました。男性の方は、クリフだ。女性の方は、何故か日本語で話しているようだ。標準語であったが、少し独特の訛りを感じる。その訛りには覚えがあった。母上が初めて来た時に聞いた訛りとよく似ていた。さらに、その声にクリフと同じ重なりを感じる。

 様子を探る為、起きたことを悟られてしまわぬよう、もう一度目を閉じた。そう盗み聞きだ。


「彼は王でしょ? どれだけのことをしたか分かっているの? 無礼にも程がある。最低よ!」

『まったく……妻は黙って夫の命令を聞けばいいだろう? それに、自分の立場を分かっているのか?』

「……もう、この話は終わり。何時間続けても無意味だわ。彼を起こしてもいけないし」

『そうだな、だったらお前は研究院に帰れ。お前にとっての子供を守りたければ、私の要望に沿った物を作ることだ』

「絶対に嫌!」


 扉が強く閉められる音がした。会話を聞く限り、ずっとこのような言い争いを続けていたらしい。僕が聞いたのは、その会話の終わりだったらしい。二人の関係は夫婦。

 しかし、言語が違うようである。女性の方は、僕と同じ言語を使っているのを聞くに日本出身であるようだ。目を瞑っていた為、容姿を確認することが出来なかったが、流暢に少し訛りある日本語を使っていた。


(日本人……なのか?)


 母上と何かしら関係のある人なのだろうか。母上の名前をクリフが連呼していたのもあるし、昔懐かしい訛りある言葉遣い。考えてみれば、母上の家族関係はあまり知らない。あまり触れてはいけないのではいかと思っている。母上側の両親に会ったことがない。実家にも訪れたことはない。母上がそれらのことを話したことはないのだ。


(聞きづらいんだよね……というか、どうして僕はここで寝てるんだ)


 目の前で起こったことに、つい気を取られてしまっていたが、僕はクリフを殺そうとしていた。しかも、それは想定内。そもそもそうさせる為であったようだった。

 あの挑発から茶番が始まっていたのか、そもそも国に来た時から始まっていたのか、考えていけばいくほど心が痛くなった。


(母上の要件って言ってたよね?)


 それに行きついた時、僕は全てが分からなくなった。分かりたくなった。分かってしまうことが嫌だった。その現実に耐えられる気がしない。弱い僕にはそんな強さはない。


(誰を信じれば?)


 目を開けるのが嫌だった。このままでいたかった。ただ、そうする訳にもいかないことは理解している。今までのこと、これからのことを思い出して一瞬の内に憂鬱な気持ちになった。

 それらを振り払うように、僕は勢い良くベットから起き上がった。少し離れた先で、椅子に座って本を読んでいるクリフと目があった。そして、また同じように薄ら笑いを浮かべた。 

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