表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十三章 海の向こうの国へ
276/403

茶番のショー

―ホワイトハウス 昼―

 クリフは、僕から逃げようとはしなかった。だから、椅子ごと地面に叩きつけた。


『激痛だな』


 一瞬だけ顔を痛みに歪ませたが、すぐに薄ら笑いを浮かべる。そして、上に覆い被さる僕を達観した様子で見つめる。それが、挑発なのは明確だった。


「よほど死にたいんだね……いいよ、殺してあげるから。いや、殺させてよ。凄く体がむず痒い」

『う~む』


 命を狙わているという自覚がないのだろうか。僕を見つめたまま、抵抗する素振りすらない。このまま僕が彼の首に手を伸ばし、強く握れば簡単に命を奪うことが出来るだろう。頭を掴んで、床に何度も叩きつけ命を奪うことも出来るだろう。殺す手段がいくらでも想像出来る。魔法を使うことは出来ないが、ここにある物だけでも簡単だ。それなのに、怯える様子も何も見せない。

 苛立ちが溜まって、彼の姿があいつに重なって見えてきた。余裕そうな表情、薄ら笑い、目の前にいるのは別人であっても、僕にはもう十六夜に見えていた。


「そうか……そういうことか。また僕を試して、馬鹿にしてるんだ。いいさ……別に。お前だけは殺してやりたかった。命を奪う行為がいくら無であったとしても、その無を感じたかった。お前さえいなくなれば……お前さえ消えてしまえば皆幸せになれる。でも、殺すならお前が僕にそうしてきたように沢山の苦しみをくれてやる。誰かの手じゃ駄目だって分かったよ。憎しみも苦しみも後悔も、僕の手で解決しなくては意味がないんだ。だから……じっくりと殺してやる。何十年もかけて殺ってやる!」


 何が何だか分からなくなっていた。ただ殺したいという欲求と、十六夜に対して心の奥底に静かに溜め込んでいた憎しみによる殺意、元々の使命と命ぜられた使命が混じり合ってしまったのだ。

 僕は、机の上にあった燭台を手に取った。これは、蝋燭を立てる為の台だ。しかし、それ以外にも使うことは出来る。素材は見るからに固い金属だ。これを使えば――。


『私と誰かを重ねているようだ。一体何者なのだろうな? 後で調べておいてくれ。相当恨んでいるようだ。時折見せる誰かを殺すような……そういうことか。これも寧々の為だ。子を心配する親心は察してやれる。まったく……』


 背後で見つめるラヴィさんに、彼は言った。殺意を持った相手を気にもとめていない。目の前にいるのは僕なのに。


(僕を……)


「ここにいるのは僕だ!」

『素晴らしい茶番だった。ここまでは寧々の要件だ。さて、次は私の要件をやるとしようか――』


 刹那、首筋から全身に広がるような痛みと、とてつもなく大きな痺れが体を走った。


「あ……」


 視界がぼやけ、音が遠のいていく。その一瞬、自分の言動全てを冷静に判断出来た。死ぬほど恥ずかしくなった。ただ、その一瞬は数秒だ。僕は、意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ