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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十三章 海の向こうの国へ
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呪縛を解き放たれし物

―車内 昼―

「ひぃぃぃぃぃ!」


 僕は斜め上にあった取っ手のような物を掴んで、体が前に倒れないように支えていた。車はとんでもない速さで進んでいる。窓から見える景色が一瞬で流れていく。


「巽様すみません! 大統領が早く来いって急かし……グアッ!」


 ラヴィさんは、前の座席に頭をぶつけた。車の内部は基本的に柔らかな素材が使われている。だが、急に衝突したら絶対痛いだろう。


「っ~! 彼、結構乱暴な運転です……急げと言いましたけど、ここまで乱暴だと……ぎゃ!」


 ラヴィさんは今度背後に倒れた。何度も同じように前後左右に頭をぶつけ続ける。


(取っ手を掴めばいいのに……)


 そのことを伝えようと思ったのだが、口を開いて言葉を紡ぐ余裕がない。取っ手を掴んで、自分の身を守ることで精一杯だ。


「ううっ……」


 次第にこの荒々しい運転と、車の中の独特な臭いのせいで頭の中が掻き回されるような気持ち悪さを覚えた。

 体の奥底から何かが噴き出してくるような感覚、正面を向いていると口からそれを吐き出してしまいそうだ。僕は俯くことでそれを押し込もうとした。だが、逆効果か無意味だったのか、それがどんどん上昇してくる。運転の荒々しさも増して、さらにそれを助長する。


(頭の中がぐわんぐわんする……何だこの気持ち悪い感じ。頭、いや体内部全体を掻き回されるみたいな……)


いつになればこの運転は終わるのか。この運転が終わらない限り、いや、終わっても続くだろう。気持ち悪さはそう簡単には、解決してはくれないのだから。


(これはヤバイな……)


 外もそうだったが、車内は相当綺麗にされている。塵一つ見当たらず、窓に指紋一つついていない。ここで、僕がこの車を汚す訳にはいかない。何としてでも耐えなくては。


「ふ~……」


 息を吐き出すと、うっかりそれも吐き出してしまいそうになった。僕はそれを飲み込んで、歯を食いしばる。それを飲み込む自分を気持ち悪いし、吐き出すことの出来なかった体も気持ち悪さを感じているようだ。


「うぅっ」


 体は何度も吐き出そうとしてくる。僕はそれを必死に抑え込む。吐き出せば、一応は楽になることは知っている。だが、それだけは耐えなくては。一国の王が車酔いで嘔吐、なんて恥ずかしい。

 僕は隣のラヴィさんに目をやる。もうあっちこっちに振り回されることを仕方ないと諦めたのか、僕みたいに酔ってしまったのか、前屈みに車の動きにされるがままだ。車の内部にあった襷のような物のお陰で、僕の方にまでくることはなかった。


「うわっ!」


 荒々しかった車は突如停止した。取っ手を掴んでいても、前の座席に頭をぶつけてしまいそうなほどに急だった。


「……到着したみたいです。はえ~危ない危ない……って、巽様顔真っ青ですよ!?」


 地獄からようやく解放された。だが、その解放はあまりにも突然過ぎたのだ。僕が必死に抑え込み、耐えていた物はその呪縛を解き放たれたように、盛大に口から零れだした。

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