影武者に成り代わる
―中庭 昼―
今、僕の目の前には気絶したゴンザレスが下着姿で倒れている。僕が一発、思いっきり殴っただけでこの様だ。
(前回と言い、よくもまぁ僕みたいな奴にこんなあっさり負けるのに僕を救うとか、この世界を守るとか大口を叩けたもんだ。僕が思うのもあれだけど、ゴンザレスの仲間の女はこんな奴を選ぶなんて、見る目がないんじゃないのか? それにしても間抜け面だな。しかもこの姿……自分がやったとは言え、やっぱり不快だな)
誰がこんなのを見て嬉しいものか、目が腐りそうだ。とりあえず、ゴンザレスの服をちゃんと着よう。
ゴンザレスの服は動きやすい少し高めの素材だ。僕の親戚ってことになっているのだから、当然と言えば当然だろう。
(靴を履いて……よし、完璧だ)
ゴンザレスには悪いことをしてしまったと思っている。多分、僕の声でも聞いて慌てて駆け付けたんだろう。
(ゴンザレスをこのまま、ここに放置する訳にはいかないな。今は偶然人がいないとはいえ、どうしたものか)
周囲を見渡すと、少し離れた先に倉庫を見つけた。元、だけど。
(新しい物が出来たから、もう何年も使ってないんだよね。よし、ここにゴンザレスを置いておこう)
ゴンザレスを浮かせる魔法を使って、担ぎやすいようにした。
「よいしょっと、流石に自分自身は重いな……」
浮いたゴンザレスを肩に担いで、倉庫へと向かう。少ししか離れていないとはいえ中々苦しい。
(どうせ、後からかなり騒ぐだろう。まぁ、どうにかなるかな)
倉庫の前まで辿り着いて扉を開けようとしたのだが、鍵が掛かっていた。ガチャガチャと嫌な音しかしない。
(参ったな……壊すか)
僕は、鍵を無理やり魔法を使って破壊した。
(破壊魔法は使い慣れるまでが大変なんだよね……よしっと)
ギーギーと音を立てる扉を片手で押して、倉庫の中へと入った。
埃臭いし蜘蛛の巣は大量にあるしで、時の流れを感じさせた。そして、倉庫の奥の方にゴンザレスを置いた。
よく見て考えたらゴンザレスが、あまりにも寒そうだったので僕の着ていた服を被せた。
(影武者に成り代わるって、命を狙われている訳でもないのに中々ないよな。フフフ……)
少しだけ楽しい気分だ。しかし、そんな気持ちに浸っている場合ではない。すぐに僕は倉庫から出て、自ら破壊した鍵を修復魔法で直した。
(監禁って奴だ。ごめんね、ゴンザレスも僕と同じで運が悪いね。まぁ、僕だから当然か)
空を見上げると、色が薄い水色から橙色へと変わろうとしていた。
(昼も終わりか。さてと、今から僕はゴンザレスだ。話しかけられたら、ゴンザレスの真似をすればいい。大丈夫……だって僕なんだし)
僕は大きく深呼吸をした。
(行こう。刺身を食べるとか言ってたし、二人で食べるなら、やっぱり睦月の部屋かな。睦月の部屋は離れにあるからちょうど良かった)
僕はゴンザレスとして、一歩足を踏み出した。




