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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十三章 海の向こうの国へ
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未知なる乗り物

―米国 昼―

「これは……」


 しばらく歩かされて到着したのは、謎の黒い光沢のある物体の前だ。その中には人が一人座っていて、丸っぽい物を握って前を見ている。その人物の視線の先には、人は一切いなくて綺麗な道が出来ていた。


「や~本当人多いですね」


 ラヴィさんは周囲を見渡し、大きなため息をついた。


「いつも外国とかから客が来たら、こんな感じなんですか?」

「そうですねぇ。皆、生で見たいんですよ。それに、日本人の方があまり来ることはありませんから。あ、あと巽様は先ほども言いましたけど、結構海外でも人気なんですよ。美男美女王室順位的なのがありましてね。上位なんですよ?」

「……そんな順位、気持ちが悪いですよ」


 顔で順位をつけられるなんて、なんと趣味が悪いことか。世の中、顔なのか。そんな順位など、何も意味しない。大事なのは中身、国を統治する力なのに。


「そうですかねぇ? 結構需要があって、長く続いているんですけどね。そういえば、巽様のお父様もかつて入られていました」

「父上も?」

「評価員の批評欄に『中性的な美しさ、甘いマスク。大人の良さと子供の良さを同時に兼ね備えている』って書いてありましたね」


(甘いますく? お菓子かな? 父上は、そのお菓子が好きなのか? 甘いお菓子なのかな?)


「覚えてるんですか?」

「当然ですよ。あらゆる情報は私の中に……」


 そう言って、ラヴィさんは自身の頭を差した。父上の若い頃の情報を、正確に覚えているなんて大したものだ。そして、唐突に気になった。僕はどのように評価されているのか。


「僕って、どんな風に評価されているんですか?」

「あ、やはり聞きたいですか!」

「怖いじゃないですか……知らない人から好き勝手言われてるなんて……だから気になるんです」


 若い頃の父上の評価は少し分からない所もあったが、相当褒められているようだ。父上だし、かなりの上位にいたことは間違いない。

 確かに歳を重ねた今でも、渋い美しさがある。十分絵になって綺麗だ。僕なんかとは比べ物にならないだろう。今も昔も。


「え~っとですね……」


 ラヴィさんは目を閉じて思い出しているようだ。一瞬、甲高い金属音がしたような気がした。しかしそれは、聞き間違いと言われてしまえばその程度の音だ。周囲は実際人が多くいるし、気のせいだと片付けた方が適当だろう。

 少ししてラヴィさんは、目を見開いた。


「『先代の良さを引き継ぐ美男子。そして生き写し。儚い笑顔と、どこか悲し気な瞳が魅力的。恐らくどちらでもいけるだろう』と、最新の評価です。順位は十二位、前回より三位上昇していますね」

「そんなに変わるものなんですか?」

「常に更新されているんです」


 世界各地の王族の情報を最新で更新していくなんて、どれほどの諜報員が必要になるのだろう。しかも、所詮は娯楽の順位でしかないのに、その為にわざわざ労力を使っているのかと思ってしまう。


「忙しそうですね」

「フフ……忙しいくらいがちょうどいいんですよ。辞めたくなるくらいに。さて、そろそろ車に乗って下さい」


 笑っているのか悲しんでいるのか、どちらとも取れる表情を浮かべながら車と呼ばれた物の取っ手らしきものを引っ張った。すると、扉が開かれた。

 そこからは、何とも言えない独特な臭いがそこから流れてくる。本来元々の素材の匂いと、果汁の香りが混ざり合って滅茶苦茶だ。


(これが車……こんなに臭いのか)


「どうかしましたか?」


 僕が入るのを待っている彼は、僕が険しい表情を浮かべているのを見て、小首を傾げている。


「いえ……」


 未知なる乗り物に入るのは、かなり怖い。だが、ここで怖気ついた姿を晒し続ける訳にもいかない。

 僕はのっそりと車の中に体を入れた。僕に続いてラヴィさんも入ってくる。中は滅茶苦茶な臭いが充満している。平然とした表情でいるラヴィさんを尊敬する。


「あ~遅いって怒ってるぅ……●◆▼×●◆!」


 急にラヴィさんは体を震わせ、前で座って丸い物を掴んでいるダ男性に何かを叫んだ。誰がどう怒っているのだろうか。連絡を取っている様子など一つもなかった。

 やはり、彼を信じるのは少々恐ろしい。


「イエス」


 奇跡的に僕でも聞き取れた。ちょっとした喜びからも束の間、ここからが地獄の始まりだった。突如車は動き出し、命がそのまま吹き飛ばされてしまいそうな速度で、道を直進して行った。

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