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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十三章 海の向こうの国へ
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大きなガラスの建物

―米国 昼―

 長い船旅、あれ以降の出来事は一切覚えていない。覚えていないというより、何が周囲で起こっていたのかいないのか記憶していないという方が正しい。

 ぼんやりと日々を過ごした。その日々は平和だった。あの夜の出来事が全て嘘であったようにさえ思う。


「思ったより時間かかっちゃいましたね~一週間ですか~過去最低です」


(その程度の日数で過去最低……わざわざそれを僕に言うなんて皮肉かな)


 あの爆発による音で聴力を失っていたようなのだが、いつの間にか治っていた。ただ、その爆発によって余計な時間を要してしまったようだが。

 確かに、僕が開けなければこんなことにはならなかっただろう。静かに怒っているのだ、この僕に。一方的にした約束を破られたと思っているから、仕方ないと言える。

 それにしても、人間とは恐ろしいものだ。技術で魔法と同じような効果をもたらすのだから。


(米国……アメリカだっけ? 街全体が眩しい……)


 ただただ驚いた。ガラスの建物が、太陽の光を反射して電気みたいだ。こんなに高い建物見たことがない。しかも、全体がガラスだから脆そうなのにおかしな様子は見られない。

 それどころか、堂々と構えている。その建物にどんどん人が入っていく。相当丈夫なガラスを使っているに違いない。


「巽様、何見てるんですか?」

「……凄いですね。どれだけ、あのガラスは丈夫なんですか?」

「何を言ってるんですか?」


 ラヴィさんは不思議そうに首を傾げた。僕はなんだか無性に恥ずかしくなった。


「別に……」


 それにしても、やたら高いガラスの建物以外は人が多過ぎて何も見えない。少し離れた場所で黒い服の屈強そうな男性が、今にもこちらに流れ込みそうな人々を押さえ込んでいる。

 全体的に女性が多いように思う。ここに来るまでも人、ここに来てからも人。歓迎してくれているのは光栄だが……。


(何なんだ、この歓声)


 耳が痛くなるような高い声が、四方八方から飛んでくる。無数の人々に囲まれている恐怖に加えて、治療後の耳に微かに染みる高い悲鳴。一刻も早くこの場から立ち去りたい。


「コンニチワー!」

「アリガト!」

「セップク!」


 理解不能な言語の中から、いくつか聞き覚えのある単語が飛んでくる。中には、何故今それが? と思う内容もあるが、恐らく適当に知っている単語を言ってみただけなのだろう。


「ヘイ! タツミ! オハヨ!」


 声のした方向へなんとなく顔を向けた。しかし、その声の主らしき人物が誰なのかは分からなかった。男性であるように思えたのだが。顔を向けた先には、僕の顔写真を振っている人々が多くいた。僕と目が合うと、嬉しそうに跳び上がる。


「なんでこんなに?」


 不思議に思った僕は、ラヴィさんに質問した。


「知らないんですか? 貴方結構人気者なんですよ……女性にも男性にもね。いいですねぇ、可愛いって。それに綺麗な顔立ちじゃないですか。セクシーだって言われてますよ」

「か……」


 一部理解出来ない言葉があるが、全然嬉しくないことに変わりはない。


(僕が可愛い? 僕をいくつだと思ってるんだ? もう二十一歳だぞ。可愛いなんて侮辱だよ。馬鹿にしてるのかな? 皆、僕を何だと思ってるんだ?)


 沸々と湧き上がる怒り。どこまでいっても、僕をそんな風に思う奴がこんなにもいる。逆に聞きたい、僕のどこがどう可愛いのか。

 その理由を紙に書いて五千文字以上、一万文字以内にまとめてそれを僕に見せて欲しい。それで、僕を納得させてみて欲しい。


「ほらほら手を振ってあげて下さいよ。いいなぁ、私もこんな風にキャーキャー言われてみたいですよ。あぁ、羨ましい」

「言って貰えばいいじゃないですか」


 そう答えながら、僕は適当に手を振った。すると、さらに悲鳴に近い歓声が起こる。


「それほど虚しいものはないですよ……いいんです。永遠に理解されない苦しみです。あぁ……神よ」


 ラヴィさんは、悲しそうに肩を落とし俯いた。

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