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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十二章 海の旅
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地獄絵図

―船内 夜―

「そんなこと……どうだっていい!」


 とめどない力への誘惑を断ち切る為に、僕は言った。あいつの嘘かもしれない言葉に惑わされ、揺らぐ自分が嫌だった。少しでも迷った自分が嫌だった。


「……それは本心かい? まぁ、いいよ……私はこの手段を巽に伝えることが出来ればそれで良かったんだから……巽は誘惑を断ち切れるほど()()()()。いつか、自ら迷うことなく使い始めるさ」

「うるさい!」

()()な。さて、敗者には罰を与えないとね。でないと、巽の勝利が無意味になってしまう」


 これ以上、十六夜と会話を続けていると気が狂ってしまいそうだった。弱いだの強くないだの、わざと僕が気にしていることを言ってくる。今までのことも含めて、怒りは既に限界を迎えていた。


「茶番の勝利なんて、勝利とは言わない」

「何とでも言えばいい。巽が勝ったことに変わりはないのだから……あ……む……だ……」


 突如、音声の乱れが生じた。赤い光が若干弱くなっている。


「何だ? 何が起こっている?」

「再起出来ないくらいに……優秀だな……し……」


 一度正常に戻ったかと思ったが、また言葉が途切れ途切れに伝わってくる。一体この現象が何であるのか、僕には理解出来そうにもない。


「ま……い……ガガッ」


 遮断されたような音と同時に、少女の目は元の色に戻った。


「もう……どうしたらっ!」


 また思うように利用された。いつになれば、僕はあいつから解放されるのだろうか。


「ジバクキノウ、キドウ」


 少女の声からは前のような生気を感じない。機械的な無機質な声。淡々とその作業に取りかかろうとする機械の声。ただそれ以上に恐ろしかったのは、発された言葉だ。


「自爆だと!?」


 刹那、ピッピッという高い音が少女から発せられる。少女の首は壊れたようにクルクルと回転を始める。


「あ……あぁ……」


 彼女は人間ではないことは、少し前から理解している。だが、僕が少女の手を包み込んだ時、確かに感じた。人としての温もりを。それを知っているからこそ、今この状況が受容出来なかった。

 と、同時に感じた。人の生み出す技術の可能性と恐ろしさを。


「出ないと……」


 自爆がどの規模かは不明だ。しかし、巻き込まれない可能性はほぼ皆無に等しいのではないかと予測する。ここまでの警告音が鳴るのは、周囲に危険が及ぶからだと推測する。震え、まともに真っ直ぐ歩けない足を引っ張りながら扉へと向かう。


「地獄だ……ここは」

「●◆▼×、×◆▼×」


 少女は警告音を発しながら、僕には理解出来ない言語を使っている。色々な言語を使う人に、これから起こることを警告している。やはり、周囲に被害が及ぶことは間違いないみたいだ。


(もう何が罰なのか分からない)


 僕は右手で扉の取っ手に触れた。しかし、その時だ。僕の左手を掴む感覚があった。


(まさか……!?)


 恐る恐る振り返ると、首を回しながら少女が僕の手を強く握っていた。その手は、やはり温かかった。人の発する温もりと何ら変わりない。でも、少女は――。


「離せ!」


 僕は、必死に少女の手を振り払おうとした。しかし、あまりにもその力は強かった。永遠に離さないとでも言いたげに、僕の手を掴んでいる。


「ギャハハッハハハッハッハ!」


 耳に触る高音の少女の笑い声が響いた瞬間、少女の首が落ちた。そして、そこから爆風が吹いた。それによって遠くへと吹き飛び、爆音が一瞬聞こえた。そして、真っ赤な炎が僕へと――襲いかかる前に、何かがそれを跳ね返した。


(また地獄だ……)


 目の前にあるのは、結界。僕を守る為の。安心し、一時的に恐怖を忘れた僕はその場に崩れ落ちた。しかし、周囲は炎に飲み込まれて燃えている。少女は粉々になってしまった。爆音と共に粉砕された。


「    」


 僕は声を発したはずだった。しかし、僕に僕の声は聞こえない。あの爆音で耳がやられてしまったと考えた方がいい。


(どうしよう……どうしたら……)


 立ち上がろうにも立ち上がれない。力が出ない。


(ハハハ……本当に死なないな、僕は)


 今回の結界のことから考えるに、僕を助けたのは大人の方の小鳥だ。何が起こるか分かっているから、僕そのものに――。


(もう十分だ。わざわざ教えて貰わなくたって……分かってるのに。もう嫌だ。どうして僕はこんなにも……)

***

―ラヴィ 船内 夜―

 事態は最悪。約束は果たされず。奴らの思う壺。最先端の技術を駆使して、穴を通り、私の運転を停止させた。奴らは、私と巽様以外には何もしていない。被害は最小限。緊急復元機能さえも破壊されてしまい、復旧にかなり時間を要した。

 例え私がやられても、巽様があの部屋のドアさえ開けなければあんなことにはならずに済んだのというのに。


 私が救出に向かった時、部屋は真っ黒になっていた。至る所が燃え、証拠になるものは全て木端微塵。してやられたと見ていい。奴らも技術力が上がっているということだ。大統領にも報告しなければ。

 巽様はその爆発に巻き込まれたものの、外傷は一切なかった。私が救出に向かった際、ただ壁に寄りかかって壊れたように笑っていた。この悲惨な状況に笑うしか出来なかったのかもしれない。


「耳の治療……もう少し時間がかかりますから。優秀な医者です。鼓膜くらい、ちょちょいのちょいです」


 巽様には聞こえない、分かっていはいるが話しかけてしまう。


「……僕は約束なんてしてませんから……」


 それだけ言って巽様は俯いた。巽様との距離感はかなり遠くなった、そう他者干渉機能が告げていた。

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