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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十二章 海の旅
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勝利の意味

―船内 夜―

「……ザンネン」


 少女がめくった札には、順番と同じ通り「二」が記してあった。


「そんなっ!」


 思わず声が出る。それなら、僕の感じた違和感はなんだったと言うのか。


「オナジ」


 少女は薄ら笑いを浮かべて、積み重ねられた大量の札を集めて僕の方へと置く。


(どうしよう……勝たなかったら、母上から貰ったこの命を守れない。誓ったのに……)


 僕はこの勝負を受けると決めた時、これは誓いに反するのではないかと思った。だが、違う。最終的に勝利すれば、僕のこの命は守られる。結果として誓いを守ることになる。しかし、初っ端からこの様では――。


(いや、違う)


 僕は、気がついたら後ろ向きになって考えてしまう癖がある。いつまでも引きずって、結局そこに囚われる。きっと、それらが見抜かれている。彼女は、あいつの知り合いなのだから。


(あえて、前向きになってやってやる。自分を騙すことくらい出来る。相手を騙すよりずっと楽だ)


 自身の胸に手を当てて、そう言い聞かせた。そして、札を手札に加える。少女と僕の手札の差は明らかだ。今までの勝負と同じように、また僕が大量の札を持っている。


(選択肢が増えたんだ。向こうの方が選択肢が少ない。大丈夫、信じれば何か起こるさ)


 再び、戦いが始まる。手札を消費し、尽きるまでの争い。僕の方が手札は多い。しかし、どの札が出された時に「ダウト」と宣言すれば良いかと迷う。その順番通りの手札が尽きるのは、確実に彼女の方だ。後は、どの時に言うか。奇跡やまぐれさえ起らなければ、多くの札を彼女に押し付けることが出来る。

 だが、それに成功したとしても、今度追い詰められるのは僕だ。それをどう乗り切るか。


(この勝負を長引かせる……彼女は焦っていた。この勝負が長く続けば、彼女が何か失敗をしてしまう可能性があるかもしれない)


「ロク」


 と、少女が言いながら札を置く。


(違うのかな? あってるのかな? いや、ここで宣言してもそんなに大したことにはならない。向こうにちょうどいい選択肢を与えてしまうだけだ)


 僕は「七」を置こうとした。しかし、また謎の違和感に僕は襲われた。順番通りに置いてはいけない。そう勘が僕に告げている。


(……何なんだ? ダウトのし過ぎで変になったかな)


 正直、これすがっても先ほどと同じようになってしまうだけではとも思う。だが、これにすがることを僕は選んだ。多少の危険を背負わないと、このような勝負には絶対に勝てない。同じようなことを続けていても勝てない。変えなくては、常識を壊さなければならない。

 先ほど勘に告げられた手は、今まで僕が続けていた戦い方だった。二巡目以降の始まりに「ダウト」と言う。全く同じ。とっくに見抜かれていてもおかしくない。こんなことに気付けなかった僕は大馬鹿者だ。


「七」


 僕はそう言いながら「十二」を置いた。実を言うと、僕の手札には全ての「十二」が揃っていた。元々持っていた二枚、先ほど回収した二枚。だから、切り捨ててもいいと思ったのだ。

 繕った笑顔がバレないかどうか恐ろしかった。しかし、彼女は宣言することはなかった。その上に「八」を重ねた。僕もその上に「九」を重ねるつもりだ。


「う~ん、どうしようかな」


 あえて悩むフリをした。僕には駆け引きをする才能はない。だったら、悩むフリでもするしかない。卑怯だが致し方ないだろう。視線だけ少女に向けると、その僕の態度に明らかに不機嫌そうだった。そのまま、僕は数十秒程度迷うフリをして「九」を重ねた。


「ダウト」


 少女は突然、そう宣言した。僕は順番通りのその札を表に向ける。勿論、そこには「九」が記された札がある。彼女は驚いた表情を浮かべたものの、すぐにそれを回収した。


(選択肢を増やしてしまった……でもこれは仕方がない。いい方向に向けばいいのだけど)


 長期戦が目的だ。選択肢が増えることで、それに持ち込むことが出来るかどうか。僕に少しでも駆け引きの才能があれば、勝負で目的の方向へ持って行けるだろうに。


(勝つのは僕だ。絶対に……果たす。ここで死んだら、何一つ守れない。何も出来ていない。だから、勝つんだ)

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