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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十二章 海の旅
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約束は果たされない

―船内 夜―

 部屋の中もまた、恐ろしいほどに快適だった。窓は一つもない。しかし、部屋の天井に設置された白い機械から心地良い風が吹いて、温度調節が出来る。暑いと思えば温度を下げ、寒いと思えば温度を上げることが出来る。何故、知らない機械を僕を操作することが出来たかというと、部屋で見つけたある物にある。

 それは、指南書だ。何か仕掛けてあるかもしれないと勘繰った僕は、部屋のあちこちを散策した。そこで見つけたのだ。それには、見たことも聞いたこともない機械の説明が事細かに記してあった。僕が使うこと前提だったのか、わざわざ日本語で。


(ラヴィさんは騙してはいないのか……? いや、まだ分からない。事前に色々出来るだろうし)


 昼食に夕食、食事をラヴィさんが持って来てくれた。足りなければ電話を使って、追加を頼むことも出来た。退屈に感じたら、大きな薄いテレビで時間を潰すことも出来た。

 放送内容は、海外の映画か何かのようだった。白黒ではなくて、色がついている。加えて、言語の違う僕にも分かるように日本語が出てくる。僕の国にもテレビはある、だがここまでではない。分厚いし白黒、音も小さい、字は当然ながら出てこない。

 同じ人間でありながら、ここまで技術の差があることに衝撃を受けた。これが、技術で生きていくと決めた者達の力なのだろうか。それとも、本来人間が持っていた力なのだろうか。


「皆元気かな……」


 唐突にそんなことを思った。皆は戦争の後処理などに追われていることは明らかだ。それなのに、僕は表面的には穏やかで快適な生活を送っている。食事も満足するほど食べれて、睡眠を十分に取れる。

 本当にこれでいいのだろうか。本来僕のやるべきことは、ここにいることではないように感じる。だが、母上の言葉にも父上の圧力にも抵抗することは出来なかった。


(小鳥はどうしているんだろう? 化け物の方はまだ落ち着いたままかな? 変なことが起こってないよね? 誰も死んでいないよね? 閏はまだ目覚めないのかな? 琉歌の調子はどうなのかな? 睦月は無事か? 美月は生きているかな?)


 この目が届く範囲にない国や家族のことが、本当に心配だった。国でまた化け物が暴れるようになっていたら、誰かが死んでいたら、変なことに巻き込まれていたら……考えれば考えるほど不安の迷宮に迷い込む。出口はない。僕が考えることを放棄しない限り。


(大丈夫だよね、僕みたいなお飾りとは違って皆が仕事が出来て、自分の使命を全う出来る人ばっかりだから……大丈夫、大丈夫。睦月も美月も皐月も閏も琉歌も小鳥も……ちゃんと国で笑ってくれているだろうか)


「アノォ~!」


 不安の迷宮は音もなく崩れた。僕は視線を扉へと向ける。そして、同時に警戒を向ける。明らかに少女のような子供っぽい声だった。さらには片言である。

 ラヴィさんは甲高い声であっても、可愛らしい少女の声ではないし片言ではない。


「誰……ですか」

「メイド、ジュリー! アノ、アノ、ココ、アケテ!」


(開けろ、だと……!?)

 

 困ったことになってしまった。ラヴィさんには扉を開けると言われている。そんな約束も――。


(あ、してないや)


 僕はあの時、返事はしなかった。約束は安易にするものではない。だから、あれは言われただけ。強制力はない。彼の一方的なもの。

 かと言って、この扉を開けてしまう訳にも――。


「タスケテ! オネガイ! シヌ!」

「死ぬ!?」


 この扉の向こうで、もしかしたら何かとんでもないことが起こっているのかもしれない。しかも声から察するに、幼い少女が危険な目に。彼女もまた小鳥のように、幼くして働く子供なのだろう。そんな彼女を見殺しにする訳にもいかない。約束なんてしていない、それに緊急事態だ。

 僕は迷いを捨てて、扉を開けた。

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