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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十二章 海の旅
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もう一つの罪

―ゴンザレス ? 夜―

「はぁ……はっぁ……」


 目下に広がる悍ましい光景。正気でない人間でなければ、これを落ち着いて静観出来るものだろうか。


「これでいい……これで……」


 俺はその場に膝をつく。流石、まともに教育を受けているだけはある。そこら辺は、貴族としてのなんやかんやがあると言える。


「怒られるかな」


 あの時、俺が代わりに汚いことをやると言った。あれ以上、小鳥の手を血で汚させたくはなかった。しかし、小鳥はそれを良しとはしてくれなかったようだ。俺に邪魔者の名前を言うことはしなかった。

 だから、俺は最低な手段を使った。小鳥が日々記録していた日記、それを忍び込んでこっそりと盗み見た。そこには邪魔な人の名前がまとめて書いてあった。今までのことも。俺と出会う以前のことも。


「……別にいいか。どうせ、今あいつはあっちにこっそりついて行ってる訳だし」


 記憶を呼び覚ます。日記に記してあった名前を。


「次は……二階堂正二郎と二階堂美津子と二階堂洋子か」


(あ~あのね。豚みたいに肥えた野郎か。確かに貴族の中の癌みたいな所あるし。うん、邪魔だな)


 小鳥が記録していた日記には、正式に邪魔だと書いてあった訳ではない。『彼がいるからどうしよう』とか『どうにか殺さずにやる方法はないか』とか書いてあった。


(だから駄目なんだよ……優し過ぎる)


 勇気がないなら、俺がやってやるしかない。汚い仕事は俺がやると決めた。そうすることで小鳥が解放されるのなら、俺はなんだってやる。愚かだろうが、屑であろうがどうだっていい。


「お前の為……いや、俺の為か? う゛……」


 血生臭い。流石にこの環境に留まり続けると、正気に戻ってしまいそうだ。


「そろそろ行くか、死体はあえて残した方がいいか。貴族ばかりを狙って……少しは落ち着かせてやる」


 何も返答しない物に喋り続けてもしょうがない。今俺がすべきことは、俺がやったという証拠を消すことだ。指紋とかこの世界は採取したりするのかは分からない。

 だが、魔法とか常識を超えた食材を使用した料理が多くある世界だ。色々訳の分からん方法で犯人特定とかする可能性があるだろう。

 俺が殺ったという証拠が残ってしまうと困る。俺が証拠を残してしまえば、俺と巽が疑われるだろう。そして、状況的に見ればどうあがいても俺が犯人だ。俺が犯人の方が助かるだろうが、俺は困る。


「努力……またこんなことばっか使ってさぁ……だから駄目なんだよなぁ。だから認められなかったんだろうなぁ……別にもう終わったことだからいいけど」


 俺は手を上にかざす。


「この場から消え去れ……我に関すること全て」


 他者を利用する呪術、最近練習し始めたものだが上手くいくだろうか。俺に課せられる代償はあってもない。どうやら、それが協力者に与えられるものらしい。他者には絶対に殺されない、血も出なければ、傷も負わない。それ相応の痛みだけは確実にあるが。

 しかし、ある時気付いた。自分で自分を傷付けることは有効であると。小鳥の記録にも記してあった。かつての協力者達は、起こること、異世界での生活に耐えきれず自ら命を絶っている。つまり、自ら死を選択しない限りは俺は生きていられる。この世界にいれば、だが。

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