罪の船旅
ー船内 朝ー
罰、それが僕に与えられたものだ。その罰は、僕に見えない大きな物を背負わせ未知の国に行くというもの。僕以外に誰もついて来ない。来る予定だった琉歌も、なんやかんやいつも僕のそばにいたゴンザレスも今回はいない。
しかし、その罰はかなり快適だ。体の疲労を取ってくれる椅子に、自由に飲食が出来る場所、寝ようと思えばいつだって寝られる。自由そのもの。今まで感じたことがないくらい快適だった。これが本当に罰だと言うのなら、これほど素晴らしい罰もない。今の所は、だが。
(こんなのでいいのかな……それとも向こうについてからが本当の始まりなのかな。地獄そのものだったりしたら……)
魔法が存在しない大国。一体、どれほどのものだろうか。興味はある、しかし怖い。
「あのあの」
目を瞑り、これから先のことを考えていると、腕を何度か引っ張られた感覚があった。目を開けて隣を見ると、ラヴィさんの椅子の動きは停止していた。
「どうしましたか?」
「武蔵国……ってどんな国なんですか? 時間があれば散歩でもしてみたかったんですけど……う~!」
悔しそうにラヴィさんは床を強く叩いた。
「国は……近年は異文化を多く取り入れて発展してきました。国民は癖の強い人が多くて、僕は少し大変です」
身近にどれだけ癖の強い人間がいるか。家族では、美月が一番癖が強い。周囲の人間では、大臣級の人間は皆癖が強い。
つまり、個性が皆あり過ぎる。自由に生き過ぎている。それでもなんとかまとまってはいる。限りなくギリギリの線で。
「巽様も癖は強いと思いますけど」
「え?」
「フフ、冗談です。それで? 流行っているものとかありますか?」
「流行っているものですか……う~ん」
如何せん僕は流行に疎い。何が国民達の間で流行っているのか、親しまれているのか、興味を持っているのか、ほとんど知らない。いつも取り残されている感がある。
ただ、そんな僕の頭の中でパッと思い浮かんだ一つの流行り。それが全体の物ではないことは分かっているが、間違いではない。
「……派手な服を着るってことですかね。富裕層の男性の間ですけど」
「派手な服? 露出が多い服ですか?」
「いえ……見るだけで目が痛くなると言いますか……一例を挙げたら、服全てが金色とか。僕には正直分かりません、どうしてそんな物が流行し、受け入れられるのか。僕は、遅れているのかもしれません」
「独特な流行ですね。面白そうで……時間があったら是非見てみたいです。あ、美味しい食事ってなんですか?」
ラヴィさんは次から次へと質問を投げかけてくる。それほどまでに僕の国のことを知りたいのだろうか。しかし、彼のお陰で退屈することはなさそうだ。恐らく相当長いである船旅を、罰を楽しむことが出来るだろう。
「……クラーケンのお刺身とかですかね」
「えぇ!? お刺身って生ですよね? クラーケンの生……う~ん」
どうやら僕の国の食文化は、受け入れられなかったようだ。周囲の国々でも当たり前なのだが、海の向こうは違うらしい。
「食べてみれば美味しさも分かりますよ。フフ」
いつかご馳走出来る時があれば、是非したいものだ。