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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十二章 海の旅
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魔法がなくても

―船内 早朝―

 船に入ると、多くの人々が出迎えてくれた。僕の国でも最近よく見かけるようになった黒い服を着た男性、黒と白を基調とした侍女服を着た女性。そして、料理人らしき人々が出迎える。


「「「◎◆▼◆×◎♡〇●!!!!!」」」


 何を言っているのかさっぱり分からなかった。先ほどのラヴィさんのように、ゆっくりと発音してくれたら助かるのだが。いや、この場合ゆっくり言われても分かる気がしない。


「ようこそセシリア号へ、我々は歓迎致します。快適な船の旅を、と言ったのですよ」


(そんなに長いことを言っていたのか……)


 戸惑っている僕を見かねたのか、ラヴィさんは微笑みながらそう教えてくれた。よく聞き取れて、意味を理解出るなと感心した。彼の使う言葉なのだから、当然と言えば当然なのだが。


「えっと、あ――」

「センキューって言えば伝わりますよ」

「せんきゅぅ……」


 かつての薬師寺大臣との鬼の英語の授業で、聞き覚えがある。聞き取ることが出来た数少ない単語。僕の知っている横文字は、数えきれるほどだ。


「ほらほら、もっと大きな声で!」


 ラヴィさんは、僕の背中を励ますように優しく何度か叩いた。


「せんきゅぅ!!!!!」


 最大限の大声を出した。が、それはやり過ぎだったようだ。船いっぱいに、僕の声が響く。船員の人達も面白かったようで、クスクスと小さな笑いの輪が出来てしまった。恥ずかしくなって、僕は俯いた。


「フフフ、可愛らしい方ですね」

「可愛くはないですから……」

「おぅ、侮辱した訳ではないのですよ。気分を害したのであれば謝ります。ほら、幸せな気持ちになれる可愛さって奴です。巽様を見ていると、それを感じます」


 また僕は悟られてしまった。それを外に出しているつもりは一切ないのだが。愛想笑いは上手くなったと自負することが出来るが、それ以外はさっぱりだ。


「幸せな気持ち? 僕なんかが、そんなたいそうなこと出来ませんよ」

「遠慮深い方ですねぇ」


 遠慮深いのではない、事実なのだ。隠そうにも隠し切れない。現実は残酷で、夢を与えてはくれない。事実から逃れる術を与えてはくれない。


「……そんなことは。あ、あの」


 こんな話をわざわざ人にしたくはない。話を逸らす為に、興津大臣から頼まれたことを使うことにした。


「どうしましたか?」


 僕は魔法を使い、興津大臣から受け取った瓶を出した。それを見て、ラヴィさんも周囲の人々も驚いた表情で僕を見た。


「これが魔法ですか! 凄い!」

「▼×◆◎」

「◆▼×」


 興味を含んだ瞳で僕に視線をぶつける。魔法というものを初めて見た人の反応だった。


「アメリカ……は魔法を使わないのですか?」


 意外だった。発展している国は、基本的に魔法を使っている国が多い。僕らの国も魔法を使う西洋の国々に倣って、ここまでの発展を遂げることが出来たのだ。アメリカは本で大国だと書いてあった。だから、魔法は存在しているものだと思っていた。


「う~ん、昔々の大昔までは使っていたのですがね。やはりその、どうしても使える人間とそうでない人間がいますから。それによる格差が広がっていた我が国では魔法の使用を取りやめるよう国民が訴えたのです。我々は歴史でそれを”平等革命”と習いました。そして、本来人が持っていない物で我々は生きていくことを決めたのです。ですから、我々の国で魔法を使ってはいけませんよ。使っていいのはこの船の中だけです」


 ラヴィさんは、人差し指を手に当て片目を閉じた。国の規則というものは不思議なものだ。


「分かりました。気をつけます」

「それよりその瓶は……?」


 ラヴィさんは不思議そうに首を傾げた。


「これを料理長に渡して頂けませんか。僕の国の大臣がどうしてもこれを使って欲しいと……」


 興津大臣の特製と聞くだけで何か嫌な予感がするが、仕方がない。これ以外何も用意していないし、渡されてもいない。流石に手ぶらは少し良くない気がする。だから、これを利用する。


「お~ぅ。分かりました。お任せ下さい!」


 瓶を受け取ると、ラヴィさんはふくよかな男性の所へ歩いて行った。何かしらのやり取りをした後、彼は嬉しそうに何度か頷いた。


(気に入って貰えたのかな……)


 とりあえず、何もないことを願いたい。平和な罰であって欲しい、そう心の奥底から願った。

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