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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十一章 鳥かごの鳥は、遠い外の世界を夢見る。
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爽やかな気味の悪い朝

―港 早朝―

 港には豪華な船が止まっていた。絢爛豪華、その言葉がこの船の為だけに存在する言葉であるかのように錯覚させるほど。

 早朝のお陰あってか人はまばらだ。それでも新聞社などがいるが。朝日が昇る前であって良かった。もし多くの人がいたら、愛想を振りまくのに疲れてしまう。


「あの~巽様」


 何故か見送りに来た興津大臣が、突如視界に現れる。


「何?」


 僕は、彼女が嫌いだということを隠し切れる気がしない。昔からではあるが、歳を重ねるに連れてますます無理になってきている気がする。


「あちらの料理長の方に、これを渡して欲しいのですが……」


 彼女の両手には、とても重そうな瓶があった。何やら透明な液体が入っている。料理長に渡せ、ということは何かの調味料なのだろうか。贈答品なら、料理長に渡すのではないようにも思える。


「料理長に渡すのかい?」

「はい」


 彼女は迷いなく答える。


「でも、これ……何の調味料?」

「秘密の出汁です。あちらの国の方の御口に合うかどうか是非聞いてみたくて……色々改良してみたんです。お願いします。私はどうしても行くことが出来ないので……」

「分かったよ。変な物じゃないんだね?」

「違いますよ……」


 彼女は悲しそうに笑った。


「……渡しておくよ」

「感謝申しげます」


 彼女は使命は果たされた、とでも言わんばかりに達成感を漂わせながら僕の前から去って行った。


(はぁ……嫌だなぁ)


 まだ見ぬ世界へ旅立つというのに、ちっとも気が晴れない。当日になれば、何か変わるものだと思っていたがそうでもない。


「うぉぉおおお! 見つけたーーー!」


 爽やかな朝には似つかわしくないほどのうるさい男の声と共に整備された港の地面を強く叩く足音が響いた。その音の先には、金髪をなびかせながら、笑顔でこちらに手を振り駆けてくる若い男性がいた。

 爽やかな笑顔とくっきりとした顔立ち。それからは想像できないほどの甲高い声。彼は僕の前で立ち止まると、走り過ぎで疲れたのか膝に両手をついた。


「はぁはぁ……普段運動なんてしないから……心臓痛い心臓……」

「あ、あの大丈夫ですか?」

「おぅ……いぇあ。ちょっと興奮しちゃって……あんまり慣れないことはするものではないね。フ~」


 彼は顔を上げて、ピシッと僕の方を向いた。


「初めまして! 私の名前はラヴィ・ホセイン・カランです! 通訳の仕事をしています。ラヴィと呼んで下さい~」


 だから、言葉が日本人と大差ないくらい綺麗なのかと納得した。


「えっと……宝生巽と申します。これからよろしく――」

「よろしくぅぅぅ! なぁいすとぅみぃとぅ!」


 僕が言い終わる前に、ラヴィさんは僕の手を握って激しく上下に動かした。勢いが凄まじくて、顔まで揺れた。


「元気いっぱいですね……」

「いっぱい寝たので!」

「そうですか……」

「それより、早く船に行きましょう! お見せしたいものが沢山あるんです!」

「え、でも……」

「いいからいいから!」


 周囲の人間に別れの言葉を伝えることは許されないまま、僕はラヴィさんに連れられて乗船した。

***

―智 城下町 早朝―

「私は何も知りませんし分かりません。貴方が何を知っていようとも、私はそれを知らないのです」


 巽様が海外に旅立つという噂を聞いて、ようやくお城に帰れる機会を掴んだと思ったら、変な金色の輩に絡まれてしまった。


「とぼけないで欲しいんだがねぇ」

「とぼけてないですよ。私は貴方のお兄さんではありません。それは見た目からして明らかです」

「そうなんだけどさぁ……やれやれ、我とは逆の奴か。それにしてもなんで海外からこっちに? まぁ、色々あるのかなぁ? 我も生まれはあっちだけど、なんやかんやあってこっちに来た訳だし……それにしても参ったな。頼みの綱がこれとは……どうにかならない?」

「意味分からないです」

「は~……参っちゃうね」


(この人危ない人だ。絶対そうだ。そうに違いない。逃げないといけない)


「まぁいいか。あ、体に死なれたら困るから言っておくよ。いよいよ国に研究者達が乗り込んできたみたいだよ……怖い存在でしょうよ。それくらい忘れないでよ。嫌だよねぇ、ちょっと協力した程度で永遠の付き合いみたいなのってさ」


 男は結局名乗らぬまま、言いたいことだけ言って、その場から去っていった。


(はぁ?)


 気味の悪い朝であった。

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