囚われの
―自室 昼―
部屋に閉じ込められた罪人。ここは牢獄。まるで囚人。限りある自由さえも奪われる、その中で怯え続ける。光が差しても、そこに光などない。光は見えない闇に消されていく。
部屋に閉じ込められて、まだ数分であるはずだ。それなのに、もう何時間も経ってしまったように感じる。それだけ窮屈で退屈な時間。
「無理……無理だ」
考えれば考えるほど、絶望的な未来が見える。
「興津大臣? どうしましたか?」
見張りの男性の不思議そうな声。
(え?)
「ちょっとたった今会合が終わりまして……それで明日のことを聞いたので……巽様にお渡ししたいものが……」
「それってなんですか?」
「……そんなのどうだっていいじゃないですか。それより、中に入っても大丈夫ですか?」
少し間が空いた後、見張りの男性の声が困惑を隠し切れぬ様子で言った。
「あまり長い時間は無理ですよ。恐らく大丈夫だと思いますが……巽様!」
「な、なんですか」
正直、興津大臣が部屋に来るなんてあまりいい予感がしない。前は謝罪と感謝を述べられたが、その後が面倒だった。
「興津大臣がお会いしたいと……その、涙ながらに訴えて……」
「はぁ……」
(どうして泣いてるんだよ)
「通してあげて下さい」
仕方なく、僕はベットから立ち上がる。
「はっ! 興津大臣、どうぞ中へ」
扉がゆっくりと開かれる。そこには、不気味なほど気持ちの悪い笑みを浮かべながら、涙も浮かべている興津大臣がいた。
興津大臣は嬉しそうに部屋へ入ってきた。部屋の扉が閉められて、またもや僕は囚人になってしまった。
「あの……何かな」
「海外に行かれるんですよね? アメリカっていう、とても大きな国に」
「そうだけど……それが何?」
彼女は俯き、自身の腕の掴んで何かを抑え込むように言った。
「巽様だけでも……無事に帰って来て下さいね」
「何を言ってるの?」
(こんな時に……やめてくれよ)
「だって海外に行くってなったら船しかないじゃないですか……もし、前みたいな大嵐が起きたら? 魔法を使っても抗えなかったら? それだけじゃないです。アメリカという国が危険な国だったら――」
「いい加減にしてくれっ!」
不安の列挙。元々僕が抱えていた不安に、それらを追加されていく。確かに遠い海外に行くには船しか使えない。箒や空飛ぶ馬車での海外への渡航は禁じられている。海外の場合、鳥族の縄張り意識が異常に強く、危険とされているのだ。
故に、海の渡航が比較的安全であるらしい。しかし、自然には抗うことは難しい。前の嵐は僕のせいであるが、嵐はほぼ自然の力で起こる。そうなれば、僕らは魔法で抵抗するしかない。だが、無限とも言えるその力に限りある僕らの力が完全に勝てるのかと言われれば、残念ながらそうではない。
「す、すみませんっ!」
僕に怒られて怖くなってしまったのか、ついに彼女は大粒の涙を流し始めた。
「それだけのことをわざわざ言いにきたのか……不愉快だよ。帰って」
「はい……」
彼女は、溢れ出る涙を両手で拭いながら部屋の扉を強く開けて、飛び出していった。それに見張りが驚いた声を上げた。
「あの~興津大臣が何かやはり?」
「別に……何もないです。気にしなくていいですよ」
開かれたままの扉を僕は、力強く閉めた。一人、ここで一夜絶望と不安に囚われることを選んだのだ。