彼女の誓い
―琉歌の部屋 昼―
ベットで苦しそうに息を乱す琉歌の手は、熱した鉄板のようだった。
「琉歌は一体……」
僕がゴンザレスの星の話を聞いた後、部屋に戻ろうとしたら、なんと部屋の前で琉歌が倒れていたのだ。その時既に体は熱く、目の焦点が定まっていなかった。
町から慌てて一番の医者を呼んで貰ったのだが、診断するのにここまで時間がかかるとは思わなかった。
「汗などを採取した結果、毒物の成分が見つかりました」
藤堂の一番弟子だった佐藤さんは、神妙な面持ちでそう言った。彼女は藤堂さん亡き今、この国一番の医者だ。
「毒物?」
(食事に盛られたのか? だとしたら犯人はこの城の中に……)
「えぇ……ありとあらゆる毒物が。飲み込めば確実に死んでいたでしょう。彼女の体の至る所に炎症の跡がありました。そこから大量の毒物が侵入したと考えてよさそうです。一体どこでこんな物を……」
彼女は、前髪を鬱陶しそうにかきあげた。
「肌から侵入したということですか?」
「えぇ、神経から徐々に侵入してくる性質の奴です。でも、これ素人が作ったみたいですよ。素人が作ったにしては上出来ですから、誉めてもいいですけど」
「職人が作ったらどうなるんです?」
「肌から入ろうが、喉から入ろうが、どっちにしても死にますよ。即死。まぁ、どちらにしても恐ろしいことには変わりはありませんが、チッ」
あからさまに舌打ちをすると、琉歌の頬に撫でるように触れた。
「琉歌はこれからどうなるんですか……もう歩けなくなったりとかしないですよね?」
苦しそうに肩で何とか呼吸をしている琉歌を見ると、心が痛んだ。代わってやれるものなら、代わってやりたい。
「それはないです。でもまぁ……しばらくは苦しむことになるかも。完全に治るのは一カ月くらい必要だと思いますね。これから一週間は、意識があってもないようなものだと思ってくれた方がいいですよ」
「どうして――」
(琉歌がこんな目に遭わないといけないんだ? 誰がこんなことを? 何の為に? 許せない……)
怒りを抑え込もうと握った手が震えた。それに気付いたのか、彼女は優しく僕の手を包み込んだ。
「この方が何者であるのかも、王様にとってどれほど大切な方であるのかも、私は分かりかねます。ですが、これだけは約束致しましょう。医者というこの職業に、私の名に、そして偉大なる師の名にかけて、この方を救います」
彼女の向ける眼差しは強く、包み込むその手はとても温かかった。
「私という二番煎じがここに呼ばれたのは……師に何かあったのでしょう。まだ公には出来ない、恐ろしいことが。師に劣らぬように誠心誠意治療させて頂きます。どうか、信じて下さい。王様」