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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十一章 鳥かごの鳥は、遠い外の世界を夢見る。
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あの星の向こう

―庭 夜中―

 一度起きてしまうと中々眠ることが出来なくて、ひさしぶりに星を眺めていた。

 空には満点の星が広がり、白っぽく輝いている。夏の生温い風が庭の草を揺らす。


(星になる……か)


 前、ゴンザレスが言っていた。「星になる」という言葉には二つの意味があるのだと。

 一つは、皆に憧れられるような存在になること。もう一つは、死ぬということだ。


(母上はようやく星になれたのかな? 見守る……星になって見守ってくれているのかな)


 月の近くで、どの星よりも煌々と輝く星があった。僕はそれを母上だと思いながら、心の中で言った。


(産んでくれて……ありがとう)


 命懸けで母上は僕を産んだ。変わらず、今も愛してくれていた。それだけのことが分かっただけで、十分だった。そんな母上に対して、今の僕が出来ること、それは――。


(今を生きるよ)


 過去に生きることも、未来に生きることも出来ない。あるのは今だけ。それから先に何があろうとも、僕は今から逃げたりはしない。残された今を大切に生きる。それが僕に出来る母上への唯一の恩返しだ。


「遅いよね……」


 後悔しても、自らが捧げた命の時間は戻らない。自分の犯した罪はあまりにも大きい。

 変わらず、星を眺め続けていると背後から何者かが忍び歩いて来ているのを感じた。振り向くと、ゴンザレスが残念そうな表情で笑った。


「ちぇ~バレたか~」

「まだ起きてたのか」

「そのままそっくりお返してやるよ、その言葉」


 ゴンザレスは、そう言って僕の隣に座った。


「……寝る」


 立ち上がろうとすると、ゴンザレスは僕の腕を掴んだ。


「ま~待てって。星見てたんだろ?」

「見てたけど……」

「もっと星のこと知りたくないか?」


 ゴンザレスは、満面の笑みでこちらを見つめてくる。笑みから来る圧が凄い。


「……まぁ、知りたいっちゃ知りたいよ? でも――」

「だよなぁ! よ~し! いっぱい喋っちゃうでぃ!」


 元々変な奴だったが、今はもっと変だ。色々吹っ切れて、どこかヤケクソになっているように思える。


「あのさ……」

「あん?」

「何かあったのか?」


 僕がそう質問すると、ゴンザレスは一瞬石のように固まった。しかし、すぐに動き出し、突然僕に抱き着いて叫んだ。


「考えたくねぇんだよ~! 失った物がデカ過ぎてさぁ! 今は誰かと何か違うこと考えてねぇと死んじゃうんだよぉ! そのせいで寝れねぇんだわ! 朝まで付き合え! 元はと言えば、お前の責任でこうなってんだよ。文句は認めねぇ!」


 躊躇いなくのしかかってくるゴンザレス。座ったまま、ほぼ同じ体重の人間を支えるのは辛い。腰が変な方向に向かっている気がする。


「や、やめろ! イタタタタ! 分かった! 分かったから!」

「やったぜ!」


 ようやくゴンザレスの圧から解放された。腰に僅かな痛みが残っている。


(どうしよう。これで変な痛みが残ったら……)


「じゃ、まずあの星だな。あの星は夏の大三角形を構成する星なんだけど――」


 早速、ゴンザレスは星について語り始めた。僕としても星の話は、それなりに興味がある。恐らく、この世界で星のことを詳しく知っているのはゴンザレスだけだ。この機会に、その知識を深めたい。外の世界のことを深く知りたい、感じてみたい。

 

(一体……あの星の向こうには何があるんだろう? 天国があるのかな?)


 ゴンザレスの話は、とても輝いているように思えた。

***

―琉歌 廊下 夜中―

 壁に手をつきながら歩いていた。夜、やるべきことを終えて、私は寝床に入った。しかし、あまりの体の重さに目を覚ましてしまったのだ。じっとしていることが出来なくて、誰かに助けを求めなければいけない気がして歩いていた。

 歪む視界、回る世界、弾ける物体、つんざくような音、それは次第に酷く大きくなっていく。


「た……」


 なんとか巽さんの部屋の前まで来た。でも、もう眠っているかもしれない。眠っていなくても、今は一人で考えたい時間かもしれない。邪魔をしてはいけないかもしれない。


(駄目……誰か他の……)


 しかし、既に限界だった。踏み出した一歩から崩れて、視界で黒が広がっていく。倒れた時の痛みも感覚も感じない。ただ、遠くに全てを感じるだけだった。

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