放り込む
―自室 昼―
皐月と一緒におにぎりを食べながら、母上から言われたことを考えていた。
(力になる……か)
母上の言うことは最もだ。この小さな島のことしか学ばないのは間違っている。価値観や考え方、視野を広げる為には、遠い国のことも学ぶ必要があるだろう。
「兄様~あと七十四個あるんだけど、全部食べてくれるよね?」
「嗚呼、七十四個ね……七十四個!? 一体どれだけ作ったんだ? 僕、結構食べたつもりなんだけど」
皐月の手の中から溢れるように現れるおにぎり達。僕は既に二十個近くは食べた。皐月も何個か食べていたはずだ。それなのに、七十四個も残っているなんて絶望だ。元々の物が食べられるようになった喜びと勢いを加算しても、それらを食べられる気がしない。
「え~っとね、百個!」
皐月は、達成感溢れる笑みでそう言った。
「百個!? なんでそんな作ってるんだよ!」
「だって、皆が上手上手って褒めてくれるから嬉しかったんだもん。それに兄様も嬉しいでしょ? いっぱい皐月が作ったおにぎりを食べられて!」
「嬉しいけど、限度って言うものがさ……はぁ」
胃袋が悲鳴を上げている。これ以上、食べてしまったら全てを吐き出してしまうかもしれない。
「む~」
皐月は頬を丸々と風船のように膨らませる。これをしているのを見ると、どうしてもやってしまいたくなることがある。
「えいっ」
僕は、皐月の顔の上で膨らんだ風船を人差し指で割った。
「ぷわっ!」
皐月は、中に溜め込んでいた空気を吐き出すと、それが面白かったのかクククッと笑い始める。
「皐月は怒るより、笑った表情の方が可愛いよ。後で保存しておいて食べるから、今は許してくれないかな?」
「食べてくれる?」
「当たり前だよ。全部食べる」
皐月の可愛らしい思いに、思わず笑みが溢れ出る。大人の世界のお願いは、お金やら土地やら高価な物やら人の命、考えるだけで嫌になるものばかりだ。それを思うと、皐月のお願いは心を温かくしてくれる。
「兄様……」
「ん?」
皐月は突然、僕の顔を見たまま硬直する。心配になり、皐月の目の前で何度か手を振った。
「皐月~皐月?」
しかし、反応はない。
「はっ! ごめんね、なんでもないよ!」
急に意識を取り戻した皐月は、嬉しそうにおにぎりを口へと運んでいく。
「僕の顔にご飯粒でもついていた?」
一応、顔の至る所を触って確認してみたものの、ご飯粒の感触はない。
「ううん~なぁんでもないよ~」
そう言って、皐月は一気におにぎりを放り込んだ。しかし、口の大きさギリギリだったためだろうか。吐き気を催したようだ。
しかし、なんとか飲み込んで、危機は脱出したらしい。
「なんだよ……というか、一気に入れたら駄目だよ。喉に詰まったらどうするんだい」
「うえっ……げほっげほっ……フフ。ごめんなさ~い」
一切の反省の色を見せないまま、皐月はまたおにぎりを口へと放り込んだ。




