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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
二十章 穏やかな日々
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研究者

―客室 昼―

 見れば見るほど、その絵が動き出すのではないかと思ってしまう。


「いいですね~お誕生日~私覚えてないんですよ。でも、多分巽様よりは年上ですよ」


 智さんは、右手で指折り数え始める。


「同い年くらいじゃないんでしょうか?」

「そうだと思ってたんですけど……最近、なんか違うような気がして。寝る前に考えていたんです。そうしたら……先生と出会った年月なんとなくを思い出しました!」


 智さんの右手は、既に十往復はしている気がする。


(いやいやいや……え?)


「それって……いつだったんですか?」


 まさかとは思いつつも、今までこの世界で、目の前で起こったことを考えると可能性がないことはない。


「あ!」


 突然叫ぶと、智さんは口を塞いだ。恐らくまだ数え終わっていないはずの右手と左手を使って。


「ど、どうしたんですか?」

「先生が馬鹿だと思われるから言うなって言ってたんでした。危なかったです~。思い出して良かった! 助かりました」


 そう言って、額の汗を拭った。


(助かってはないと思うなぁ)

 

 智さんの見た目は僕と同じくらいだが、年齢を数える時の右手は往復十回を超えていた。しかも、シャーロットさんに馬鹿だと思われるから言うなと口止めされているということは、だ。


(智さんは、この時代よりずっと前に生まれた……?)


 非現実的。だが、シャーロットさんもまた同じように見た目と反して年齢がおかしなことになっている。彼女の証言は嘘ではない。あらゆる証拠も根拠もある。智さんが中身はおばさんだと言っていたが、おばあさんの方が明らかに正しい。


「あの……智さんは、この国がこの国になる前に生まれた……とかですか?」


 僕がそう言うと、智さんは分かりやすく身を跳び上がらせた。


「えぇ!? 何言ってるんですか、そんな訳ないじゃないですか。常識の範囲内で考えて下さい。確かに先生はそうかもしれませんけど、私がそんな訳ないです。ないないです。絶対ないです。先生に余計なこと言うと、変な研究者共に狙われるようになるから絶対に言っては駄目だと言われたし、そもそも言っても誰も信じてなんてくれないから、言わない方が正しいって言われましたし。確かに記憶が時々変になりますけど、それとこれとはそんなに関係ないって思えって言われましたし。巽様、考え過ぎですよ」


 智さんは長々と早口でそう言い切った。こんなにも早く言える人だとは思わなかったが、明らかに何かを隠しているのが丸分かりだ。しかも、聞いていないことまで自分で言ってしまっているし。


「研究者ってなんですか?」


 恐ろしかった。研究者がいることを。この国にいるのか、外国にいるのか。せめて、それだけでも知りたい。


「え? 私そんなこと言いましたっけ? 記憶にないです~あー! 今から町に行かないといけないんでしたぁ! た、巽様。失礼しま~す!」


 智さんは慌てふためいた様子で、僕を無理矢理押しのけて部屋から出て行った。


(絶対に何か知ってる……帰って来たら吐かせよう)


 帰ってくる前に、父上の所へ行かなくてはならない。失礼な態度を取ったこと、国を混乱させてしまったことへの謝罪。目のことも一応聞いてみよう。あまり、気は乗らない。怒られることが目に見えている。


「行かなくちゃ……」


 震える足をなんとか前に持って行き、部屋を出た。

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