城から見えたもの
–自室 昼―
(退屈、暇……時間が長い。誰か話し相手になってくれないかな)
考えることに疲れた僕は窓から外を眺めた。澄み渡る空の下、城の庭を忙しなく動き回る使用人達。それぞれ色んな仕事を必死にやっている。きっと、彼らにとってはこの時間はあっという間だろう。
そして、石の壁の向こうは城下町だ。時代の変化で木で出来た建物は徐々に減少してきている。実際、僕達の住んでいる城も少し前に建て替えをして、火災や災害などにも強い素材を使っている。
しかし、全てが洋風になったかと言えばそうではない。城にも和室はちゃんとあるし、民の家にも和室はある。洋と和が同じ空間にあるのだ。それは、当然かもしれないけれど凄いことだと僕は思っている。それは、家だけではなく、軍事的、芸術的なことにも共通する。
これは、母上が新たなる文化を持ち帰り、父上が上手く融合出来るよう努力してきたからだ。二人の努力があったからこそ、この国は前よりも美しく強くなれたのだ。
(僕には出来るかな? こんなことが。母上のように最初に異文化を受け入れる勇気。皆にも受けて入れて貰うために父上のような説明や、二つの文化を調和させることが出来るかな)
僕は、その方面は苦手で父上に任せっきりだ。
(もう何年か経つのに駄目だな僕は。こんなのじゃ、だから父上に……はぁ……)
僕は、再び庭へと目を向けた。すると、俯きながら力なく歩く、珍しく元気のなさそうな睦月が見えた。雰囲気からもう悲しげな感じが漂っている。
(どうしたんだろう? 珍しいな、ちょっと話しかけてみるか)
僕は大きく息を吸って、思いっきり叫んだ。
「睦月ーーーー! おーーーーい!」
睦月はかなり驚いた顔をしながら、僕の方へと向いた。なんとか届いたみたいだ。あまり大きな声を出すのが得意ではないから、不安だったけど良かった。
僕は、こっちこっちと手招きをした。すると、睦月はしばらく考えるような素振りを見せた後、大きく頷いて宙へと飛び上がる。
そして、すぐに僕の部屋の窓の前まで来た。
「……なぁに? 珍しく大きな声で、うちを呼んでさ……」
その声からも、やはりいつものあの元気さを感じなかった。
(分かっていたとは言え、調子狂っちゃうな)
「あの距離から見ても、明らかに元気がなかったからさ、どうしたのかなーって思ったんだよ」
「う、ううっ……」
睦月は、突然大粒の涙を流し始めた。
「えっ、えっと。と、とりあえず、中入って? 話聞くからさ」
「うん、ありがとう。ううっ、ううううう」
僕がそう言うと、さらに涙を流した。
(本当にどうしたんだろう? 睦月がこんなに泣くなんて……)
そして、ゆっくりと睦月は部屋に入った。
(とりあえず、落ち着くまで待っていよう。しばらくは、話したくても話せないだろう。こんなに泣いていたら……)
しばらく睦月はすぐ近くにあった椅子に座ろうともせず、ただそこで泣き続けた。




