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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十九章 罪と罰
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願いを乗せて歌う歌

―庭 朝―

「えへへ……ごめんなさい」


 琉歌は照れ臭そうに笑った。


「一歩間違えれば死ですよ……まったく夫婦揃って……」


 陸奥大臣が大きくため息をついた。


「え! 巽さんも私みたいに落ちかけたの?」

「琉歌みたいにドジをやった訳じゃないよ。魔法が使えなくて……いや、もうこれはいいよ」


 陸奥大臣にまた追及されても困る。今は琉歌の話題をなんとかして盛り上げたい。少しでも先ほどの件をなかったことにしたい。誤魔化すための時間が欲しい。


「酷い! 私を馬鹿にしたー!」

「事実を言っただけなんだけどな……」


 少しは注意をするようにして欲しいものだ。このままではいつか死んでしまう。実に情けない死に方をしてしまうのが目に見える。それだけはやめて欲しい。危機感を持って生きて欲しい。


「なんか言った!?」

「いや言ってない。言ってない言ってない」

「本当かなぁ……」

「夫婦喧嘩は勘弁して下さい。あ、巽様、先ほどの――」


(まずい!)


 またあの話に戻される。それだけは避けなくては。


「あああああ! そういえば琉歌! 琉歌がさっき歌ってた歌って何!?」

「どうしたの、急に……陸奥さん、巽さん海の中でおかしくなったの?」


 琉歌が、引き気味に僕を見る。


「海水が脳に与える影響までは流石に知りませんね……私の勉強不足です」

「おかしくなんてなってないよ! それより質問に答えて欲しいんだ。君の歌素敵だったから」

「え? そんな……照れるわ」


 歌声が素敵だったのは事実だ。叶うならもっと聞いていたいくらい。だが、問題は何故その歌を聞いたことによって幻覚及び幻聴が現れたのかだ。


「確かに綺麗でしたなぁ……しかし、聞いたことのない歌でした。上野国では有名な歌なのですか?」

「上野国ではそんなに……誰も知らないと思う。小さい頃に憧れのお姉さんが歌ってて……歌術ってやつなんだ」

「歌術……」


 少し前、美月に教えて貰った術だ。それを使いこなせる人物も少なくて、随分前に滅びたと一般的にはなっているらしい。

 しかし、それは見当違いであったようだ。実際には琉歌も小鳥も使っている。


「うん。私のさっき歌ったのは願う歌なの。ちゃんと出来たらその願いが叶うらしいんだけど……私、あんまり上手じゃないみたいで」


 琉歌は悲しそうに笑った。


(琉歌の願いを乗せて歌っていたのだとしたら……)


「琉歌は何の願いを乗せて歌っていたんだい?」

「え!? そ、それは……巽さんに……」

「僕に?」


 少しの間、無言の時間が続く。


「……ごめんなさい。言えない!」


 琉歌が走ってどこかへ行こうとする。それをとめようとしたのだが、間に合わなかった。陸奥大臣に頼もうとしたら、何故かいない。


「きゃぁ!」

「ぎゃっ!」


 しかし、結果として彼女の足はとまった。


「だ、大丈夫かい。二人共!」


 琉歌と興津大臣が正面衝突をしてしまったのだ。興津大臣は頭を抱え、座り込んで目を回している。一方の琉歌は座り込んで、頭を押さえている。

 僕は慌てて二人の所へと駆け寄る。


「大丈夫です……」

「私も大丈夫……」


 どちらも大丈夫そうには見えないのだが。興津大臣はその体勢のまま、ゆっくりと口を開く。


「そんなことより、巽様。大変なのです。戦火の影響で吉原が半焼してしまいまして……遊女が多く亡くなってしまったそうです。それで、五十嵐家の方が一刻も早く吉原に来るよう申しておりまして。相当お怒りで王が来なければ吉原廃止だと……でも、そんなことをされてしまったら我が国は!」


 興津大臣は顔を上げた。その顔には焦りが浮かんでいるように思えた。


「五十嵐……小吉さんか? どうして彼が……そこまでの?」

「知らないのですか!? 五十嵐家は吉原全体を管理しているのですよ」

「そんな……」


 本当に僕は無知だ。その無知が、自分自身の首を絞めている。僕の悪い癖が国を壊していっている。守るべきはずの立場でありながら、矛盾した行為を繰り返し国を混乱させている。

 浅はかで愚かな考えが、人の命を奪った。僕の知らない所で。僕のせいで。

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