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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十九章 罪と罰
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謎の女

―琉歌 廊下 朝―

 頭に付着した冷たい液体を手につけて、臭いを嗅いでみる。


(水……?)


 それは透明で無臭だった。


「ご、ご、ごめんなさい!」


 背後から一人の女性が慌てて私の前に現れる。その手にはお盆が握られていた。そのお盆の上には、ガラス瓶に木の蓋が付けられているのが四つあった。

 だが、その真ん中にある瓶はその木の蓋が外れて倒れている。そこから、透明な液体が零れているのが分かる。


「あ、え~っと……」


 この女性には見覚えがあった。薬師寺さんにお城を案内して貰った時に一度出会い、少しだけお話をした。


「興津若菜です……そ、そんなことより大丈夫ですか!? 水が目に入ったりなんてしてませんか!?」

「あ、そうだった! 大丈夫だよ!」


 涙を浮かべる興津さんを安心させる為に、私は何度か跳んだ。本当に何ともないし、さっきのがただの水なら何の影響もない。どうして、彼女がここまで心配しているのか分からなかった。


「興津大臣は相変わらずドジっ子だ~面白い!」


 皐月ちゃんは、楽しそうにクスクスと笑った。


「うぅ……申し訳ございません。情けない話で……」

「も~興津さんったら。折角の綺麗な顔が台無しだよ! 私はなんてことないから気にしなくて平気だよ!」


 萎れた植物のように落ち込む興津さんの頭を優しく撫でた。それに少し驚いたのか、興津さんは肩を小さく一度揺らした。


「駄目ですよ……私なんかに触ったら。不幸になります」

「そんな悲しいこと言わないでよ!」

「すみません……」


(駄目だこりゃ……)


「あ、琉歌さん、水だけど一応拭いた方がいいんじゃない?」


 皐月ちゃんがそう言った。確かにそうだ。風邪を引く訳にもいかないし。


「そうだね、ちょっと部屋に戻って拭いてくる!」

「本当に申し訳ございませんでした……」

「まだ言ってる……行ってらっしゃい、琉歌さん!」

「本当になんてことないのに……アハハ、また後でね!」


 二人に手を振って、この場を後にした。

***

―自室 朝―

(こんな罪人が王をやってるなんておかしいよ……やめたい。もうやめたい。僕は今までこの国に何か出来た? ううん、何もしてない。迷惑をかけてるだけだ。相応しくない……母上が生きるべきだったんだ。僕なんかより。そうすればきっと誰も不幸になんてならずに済んだはずだ。僕が母上を奪ったから……)


 罰を受けるべき人間が、祝われる資格なんてどこにもない。罪深い。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「貴様ー! 何奴!」


 廊下の方からそんな声がしたかと思うと、次に目の前の廊下を走り抜けていく足音がした。その後すぐに、それを追う何人かの人々の足音が廊下から響いた。


「何だ?」


 耳を澄ますと、隣の閏の部屋の扉を開ける音が聞こえた。


「待てー!」

「待てって言われて待つ女じゃないの、あたしは!」


(女の人……?)


 可愛らしい小動物のような声だ。だが、何故だろう作っている声であるようにも思う。


「飛び降りたぞー!」

「いや、舞い上がった!」


(何が起こってるんだ? 隣で)


 外の様子を確認する為に窓を開け、閏の部屋の方を見た。すると、そこには顔から上を趣味の悪い仮面で隠した、長い茶髪の女性が宙に浮いていた。その手を両頬に当てて、笑いながら言う。


「あたしのせいで一人の子供が犯人のように扱われてるのが心苦しくなっちゃって~なんての? 罪悪感? 残念だけど、あの子は何もやってない。やったのは、あ・た・し。アハハハハハハハ!」


 高らかに笑い、その格好のままさらに上へと舞い上がる。僕の位置からでは、身を乗り出さないと見えなくなった。

 僕と同じように騒ぎを聞きつけた者達が庭に集まっている。そこには、小町と陸奥大臣の姿もあった。


(陸奥大臣も無事だったんだ……良かった。いや、当然か)


 陸奥大臣の元気そうな姿を見れて安心した。


「貴方は何者!? 小鳥じゃないって……どういうこと!?」


 小町が叫ぶ。


(小鳥じゃない? どういうことだ? 何かあったのか?)


「知らないのね……これを言えば証拠になるかしらね? ”あたしも神呪かんのの血を引いてる”」

「どうしてその名を……! まさか、そんな!」


 小町の表情から動揺が伝わってくる。


(さっきから何を言ってるんだ? 神呪? 何か僕の知らない所で起こってる?)


「でも勘違いしないで、あたしが彼を殺したのは悪意からではない。あたし達の一族に与えられた使命、いえ……報いとでも言った方が正しいかしら? それから来てるの。彼がいてはそれに影響を及ぼす。だから殺した。どうせ、お前達みたいな優しい人間には出来ね……ゴホン。出来ないでしょ? だから、今回だけは特別」

「そんなの聞いてないわ!」

「えぇ、あたしは聞かせるべき存在ではないもの。でも、その血は引いてるの。”神呪”それだけでもう十分でしょ? さて……お話はこれでおしまい。あの子はさっさと解放してあげるのね。罪もない子に罪を押し付けるのは……なんか気に食わないの」


 そう吐き捨てるように言うと、女性は姿を消した。


「神呪……使命、報い? 罪? 殺した?)


 瞬間移動で消え去った女性は、意味深長な言葉を残していった。だが、僕には何一つ分からなかった。言葉の意味も、重大さも。

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