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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十九章 罪と罰
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争いの痕跡

―ゴンザレス 巽の部屋 朝―

 薩摩国との戦争は、突然の大嵐により終わりを告げた。僅か半日程度であったにも関わらず、その痕跡は至る所に残ることとなった。

 戦死者はこちらだけでも約一万人、負傷者はその倍だ。さらには、その戦火が吉原にも飛んでしまったらしい。半焼し、多くの遊女が取り残されて死んだ。遊女だけが。

 もし、これが長期化していたらと思うとゾッとする。あの嵐がなければ、こちらは文字通り殲滅させられていた。誰も助からなかったかもしれない。


(本当に何の為の戦争だったんだよ……)


 真意は巽にしか分からないだろう。しかし、驚いた。その張本人がこの状況を一切喜んでいない。勝った、とは言い難いからだろうか。

 この戦争に勝敗をつけるとしたら、薩摩国はあの未曾有の大嵐により王と軍の指揮官、国の実質的運営を行っていた明星 静を失った。あちらの目的がこの国を終わらせることだったとしたら、それは向こうの負けなのではないだろうか。


(にしても、なんでこんなに病んで帰ってきた?)


 あの大嵐の中の唯一の生存者だ。他は誰一人として助からなかった。あの坊主頭のヤベー奴も、その仲間も。全てが海の中に沈んでしまったらしい。海岸に、一人だけ打ち上げられていたと聞いた。それ以外には何もなかった。そこで、激しい海上戦が行われていたとは思えないほど。


「どうしてどうしてどうしてどうしてどうして――」


 巽はベットの上で目を見開いたまま、頭を抱え、そう繰り返し呟き続けている。「どうして」だけしか今の所聞いてない。


「あのさぁ、お前『ど』と『う』と『し』と『て』しか使えねぇのか? さっきからもうそれしか聞いてねぇぞ」


「どうしてどうしてどうしてどうしてどうして――」

「あー壊れてますねぇ。な~んで俺がこんな奴の監視しないといけぇんだか……他にやることあるのに」


 そのやることとは、大人の小鳥が犯してしまった罪のことだ。このままでは、子供の小鳥に罪が被せられてしまう。天才的な頭脳を駆使し、なんとかそれを阻止しなくてはならないのに。


(う~……女系しか知らねぇってのが。あ!)


 突如、俺は天才的なアイデアを閃いた。


(女の隠し子ってことにすりゃいいじゃん! 決めた! もうこれしかない! 失うものが俺にあるだけで、これがいい! うん!)


 自身最大のコンプレックスが、まさか役に立つ時が来るとは。


「で、こいつをどうにかしねぇと……む~」


 そんなことを考えていた時、部屋の扉が開かれた。振り向くと、そこには皐月が立っていた。

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