表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十八章 掌の上で
224/403

縄張り

―港町 夜―

「愚かだな……嗚呼、本当に」


 ぼんやりとした意識の中、僕はその声を聞いた。


(小吉さん……?)


 確か目に激しい痛みと熱さがあった。しかし、今はもうない。その代わりに体が重くだるい。今、僕は何をしているのだろう。


「我の言葉をこんなにも簡単に信じてくれるとは……騙しがいはあるけど、なんだか複雑な気分だよ。だって我の体の一部から生まれた存在なのに……ん? あれ、もう獣っぽい臭い消えてる。今はもう彼か。表だって出てくると力を消耗しちゃうのかな? 所詮は人の手から生まれた存在ってことだね……ま、いいか。どうせ話は聞いてるんだろうし」


 僕の視線の先には、小吉さんの顔が見えた。こちらを見ることなくブツブツと言い続けている。下から地面を叩く音がする。僕を抱いたまま歩いているようだ。


「……男をお姫様抱っこする日が来るとは。はぁ~我が君を食べたら何が起こるか分からないしなぁ。残念だけど、今は我慢することにするよ」

「な……んでお姫様抱っこを……」

「え? 話せば長いよ?」


 僕に視線を落とす。

 

「じゃあいいです……」

「そう? 次君が目覚める時には、もう体は楽になってると思うよ。これからの我の為にも、君の力が必要みたいだし」


 そう言って、小吉さんは大きな手を僕の目の上にかざした。僕は、真っ黒に染まった世界に再び誘い込まれた。

***

―薫太夫 光儀楼 夜―

 あたしは、部屋の窓から景色を眺めていた。普段からこんなことをしている訳ではない。ただ、違和感を感じるのだ。明らかに外の様子がおかしい。


(怖い……何が起こってるの? いつもより道にも人がいないし、向こうの方の空は変に光ったりしてるし、爆発音みたいなのも聞こえるし)


 遠くの空が橙色に光った後、そこからは煙のようなものが現れる。その臭いなのかは不明だが、焦げ臭い。普段はやたら賑やかな大通りには客はいない。いるのは吉原に住む者だけだ。


「姐さん」


 すっかり外に気を取られていたあたしは、千幸が隣に来ていたことに気付けなかった。


「ん?」


 千幸はあたしの着物の袖を掴んで震えている。どうやら千幸にも、この違和感は感じるらしい。


「怖い……怖い……」


 あたしは、優しく千幸の頭を撫でた。外の音や光、臭いを感じないように千幸の顔を袖で覆い隠した。


(千幸……大丈夫だよ、あたしがそばにいるし。それに、何かあったらきっと彼が……)


 あんなに軽くて最低で嫌な男なのに、何か困ったことが起こると派手な彼のことを考えてしまう。困った時、助けて欲しい時に彼は来てくれる。

 こんな時だからこそ、軽く楽しませて欲しい。もうそろそろ来てくれる時間だろう。


(どうしてあんな奴を……いいえ、あんな奴だからこそ?)


 そんなことを考えていた時だった。背後に突然人の気配を感じた。


(いつもだったらおばば様が呼ぶのに……たまたまかしら)


 しかし、そんな疑問は遠くへ捨てて、ついに来てくれたのだと顔を背後に向ける。しかし、そこにいたのは彼ではなく他の男。見たこともない人、前来た巽とは訳が違う。

 あたしは危険を感じて、千幸を後ろへ移動させる。


「噂通り……とっても美しい女性だ。絵に描いたような……いや、あらゆる理想と憧れが具現化したような……こんな所で朽ち果てていくのだと思うと悲しく思うよ」

 

 男は薄ら笑いを浮かべる。


「怖いでありんす……姐さん……」

「そんなに強く睨まないで欲しい……なんて言っても無駄か。仕方あるまい。ここを縄張りにしている化け物がいてね……封印を解いてやったというのに逃げた愚か者だ。人を舐めている奴でね、罰を与える必要があるのだ。悪く思うな……」


 男は手をあたし達に見えるように差し出して、指を鳴らした。瞬間、男の姿は消えた。それと同時に辺り一面が火に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ