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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十八章 掌の上で
222/403

その顔は美しい

―港町 夜―

 カキーン、と金属音がぶつかり合う音が響いた。躊躇なく振り下ろされた刀を剣で防ぎ、衝突の反動を利用して小吉さんを弾き飛ばす。


「おぉっ、流石だね。勢いと体重を結構かけたんだけどね~。まぁ、この程度で怪我してたら王様なんて務まらないかぁ。ちょっと舐めてたよ。仮にも王で、しかもちゃんとここまで来たんだもんね」


 体勢を整えながら、小吉さんは満面の笑みを浮かべていた。余裕綽々、この状況を楽しんでいるようにさえ感じた。


「貴方は……薩摩の人なんですか」

「薩摩? へ? いやいやいやいや……違う違う違う!」

「じゃあ何故……」

「その質問に答える前に、一つ聞いていいかな?」


 小吉さんは刀を構えた。


「何ですか?」

「巽君、君は我を信じていたかい?」


(は?)


 どうして急にそんなことを聞くのだろうか。だが、一応との質問の答えを考えよう。僕が小吉さんを信じていたかどうか。

 あの時、確かに僕は信じていた。出会ってすぐに、不自然なほどに親切にしてくれた彼を信じた。彼がいなければ、薫太夫と話すどころか会うことも出来なかっただろうから。


「……信じていましたよ」

「嗚呼! 最高だ!」


 僕がそう言うと、彼は突然そう叫んだ。


「え?」

「何故、こんな時に君の邪魔をするのか。それはね! 我は信じてくれている人を裏切るのが大好きなんだよ! だって楽しいだろう? 裏切られた人の顔って美しいだろう? それを見たくて……君の敵として現れたのもそれが理由さ。良かった……最初、我が現れた時の君の表情は実に愉快だったよ。だけど、もしかしたらただ驚いただけって可能性もあるし……最初から信じてなかった可能性もあるし……そもそも、我のことを忘れてる可能性もあるし……ちゃんと確認が取れて良かったよ!」


 長々と彼はそう語った。つまり、裏切るのが大好きってことだ。先ほどの天性の裏切り者とかいう二つ名は、そこから来ているのだと思う。


(やっぱりヤバイ人だったんだ……)


「期間が短かったからね……一か八かの賭けだった。こんな時じゃないと立派な身分の人の美しい表情は拝めない。王である君が町に出て戦ってるって噂を聞いて、いても立ってもいられなくなったよ」

「本当にそれだけの為に来たんですね……だったらもう十分でしょう。僕の邪魔をしないで下さい。貴方が僕を裏切ろうがどうだっていい。そんなの些細なことだ。そこを――」


 正面には、無数の小さな刃物が僕の目の前に音を立てながら迫っていた。咄嗟に、僕はその無数の刃物に無効化の魔法をかけることを決めた。それは、小さな魔力であったから。この程度であるのなら、その場しのぎの無効化魔法も通用する。

 元々無効化魔法は魔法実験用のものであって、その場その場で発生する戦闘に使うものではないのだ。事前準備があって初めて成功する。


(殺すつもりなのか……僕を。だけど、ここで死ぬ訳にはいかない)


 僕は、両手をその迫りくる無数の刃物に向けた。


(刃物にかけられているのは、速度上昇の簡易的な魔法が使われているのは間違いない。それ以外に使われているものがあるかどうかが見抜ければ……しかし、今は!)


 刃物が僕の目の前にまで来た時、僕の手から発せられている無効化魔法に触れたそれは速度を失い、静かに落下していった。

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