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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十八章 掌の上で
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心を鬼に、俺を道具に

―ゴンザレス 廊下 夜―

 待ち合わせ場所に向かうと、そこには大人の小鳥がうずくまっていた。苦しそうに肩で呼吸をしている。


「おい、大丈夫か!」


 ただならぬ様子に俺は慌てて駆け寄った。


「すみません……大丈夫です……お待たせしました」


 ほぼ息になっているその声、何かあったと思わざるを得ない。


「大丈夫じゃねぇわな、愚問だった。それってあれか呪術って言う奴のせいか?」


 ちょっと鎌をかけてみると、小鳥は分かりやすく体をビクッとさせた。


「呪術……何のことですか? それよりお城を……」


 小鳥は苦しそうに立ち上がると、俺の方を向いた。少し顔色が悪い。そして、その目からは大粒の涙が溢れていた。俺はその涙を見て失望した。


(嘘つくの下手くそだ、相変わらず。体調も悪そうだし、さっさとはっきりさせっか)


「藤堂さんが殺されてた。呪術で」

「え、そ、そうなんですか……一体誰が?」

「今医務室には、お前の母さんと子供のお前がいる。それでお前の母さんは子供のお前を疑ってる。いや、もう確信してる。その選択肢しかないって感じで」


 俺には分からない。本来ならば信じなくてはならない立場の母親が、あの状況で娘が犯人であると言い放った。一族として失態でもあるとも。どれほどの思いでそれを告げたのだろうか。


「どうして私が!? もしかして血祭に……」


 小鳥は口を塞いだ。血祭を知っている人は、小鳥の家系の、しかも女だけ。この血祭という単語が小鳥から出たことで、もう完全にクロだ。


「ハハッ、お前が推理小説の犯人じゃなくて良かったよ。すぐに物語が終わっちまう。ま、お陰でさっさと分かって良かったよ」


 思わず笑ってしまった。小鳥の主人も嘘が苦手だ。俺は全然得意なのだが、やはり環境とか経験だろうか。


「私を軽蔑しますか? 目的の為に人を殺した私を――」

「な訳ねー」


 力強く小鳥を抱き寄せた。


「え!? 何するんですか!」


 身の危機でも感じたのか、小鳥は体を左右に揺らしたりと抵抗する。しかし、その抵抗の力は弱い。まるで、釣られて時間の経過した魚のようだ。


(何もしねぇよ……もし、これが俺じゃなくて、こっちの俺……巽の方だったら喜んでOKしてるんだろうな)


「その涙は藤堂さんの為に流してるのか? だとしたら、それは間違ってるな。お前が何度やっても国を、世界を、巽を救えない理由はそこにある。これでよく分かったぜ」


 これは俺の本心だ。こんなのでは、俺が必死こいてやってきたことも無駄になるのが目に見える。俺が失望した理由はそれだ。

 小鳥は抵抗するのをやめた。やめたと言っても、元々抵抗なんてないに等しかったが。


「でも、私は――」


 小鳥の言葉を、俺は遮る。


「お前、さっき言っただろ。目的の為に殺したって。なら、その行為は俺達的には何一つ間違ってない。藤堂さんがいると、世界も国も巽も守れないんだろう? だったら何の問題があるってんだ? 俺達は正義の為にこんなことをしている訳でもないし、いい子ちゃんする為にこんなことをしている訳でもねぇよな? この国の存続と、国が存続する上で必要となる世界、王を守る為だけにやってるんだろ? もっと冷酷になれ、もっと残酷になれ。じゃねぇと、大きなものを守るなんてことは出来ねぇよ。不要分子は廃除する。それくらいのことを普通にやってのけねぇと駄目だろ」


 今の俺が言ったことは最低最悪。人としてどうなのかと思ってしまう。でも、それでもこの国を守る為、今のこの状況を救う為、俺達はここに来たのだ。


「私だって、心を鬼にしたんです。頑張って嘘もついて、罪悪感に襲われながら……ずっとこっそりお城に忍び込んで呪術の用意をしていました。そして、この混乱に乗じて……おかしくなりそうです。私には向いてませんでした。世界を救う、守る……あまりにも大き過ぎます。最初は巽様さえ守れればと思っていたのに。しかし、それだけでは駄目だと気付いて……繰り返される世界の中で我が家系の償いに等しい使命を知って、それを見続けている存在も知って、その存在に呆れられて協力者を得る権利を貰った。でも、それでも駄目でした。だから、今回こそはと。もう終わらせるために解放されるために国の最終的な崩壊の根源を……」


 小鳥は吐き出すように、懺悔するようにそう俺に言った。


「お前にとって協力者は道具と一緒だ。自分には出来ないことを、解決するための道具。お前は優しさの塊のような奴だ。これ以上やったら、きっとお前が壊れてしまう。俺はお前の道具だ。汚れ仕事は俺がやってやる。お前は心を鬼にして、俺にそれを任せてくれるだけでいい。もう、お前の手はそれ以上汚させない。使い捨てだと思ってくれればいい。俺はお前と違って、元の世界になんて戻っても未来はないから」


 あったとしてもほんの数秒。家族に謝ることも、未来を語ることも、夢を見ることも出来ない。だから、こっちに呼ぶことでその数秒を増やしてくれたこいつのために俺はやるんだ。

 絶対に成功させる。手段は選ばない。何度でも言おう、これが俺の恩返しだ。

***

―港町 夜―

 港まであと少しの所で、突然目の前にやたら派手な衣装を着た男性が現れた。見覚えがあった。僕として会った人ではなく、タミとして会った人だ。


「タミ……だったかな? こんな形だけど再会出来て良かった。ここに来るまでに死なれてたらどうしようかと思ったよ。さて、改めて自己紹介としようか。天性の仕事人改め、天性の裏切り者……五十嵐 小吉だ。あぁ、君の自己紹介はいらないよ。だって知ってるし。宝生 巽君……この国の王」


 それだけ一方的に言うと刀を鞘から出し、こちらに向かって踏み切った。

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