表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十八章 掌の上で
220/403

犯人は誰?

―ゴンザレス 医務室 夜―

 絨毯に染み込む血。その中央に倒れる血が付着している以外は、比較的綺麗な藤堂さん。その藤堂さんの隣で倒れていた生きている子供の小鳥。その小鳥が持っていた血の付着した剣。


「あの……本当に本当に亡くなって……」


 背後の興津さんが消えそうな声で言った。


「死んでますなぁ、うん」


 藤堂さんの遺体を見つけて、かれこれ二時間程度経った。ちなみに、このやり取りは七六回目だ。どうしてもこの現実を受け止め切れないらしい。


「そんな……どうしてこんな時に……本当に小鳥ちゃんが?」


 この発言も七六回目だ。


「いや~う~ん。状況的にはそうなんですがね、常識的に考えて子供が大人を殺せるのかってね。争ったような跡すらないし……なんか引っかかるんですよ」

「小鳥……」


 母親が、若干血に塗れた小鳥を抱き寄せている。その目には涙が浮かんでいた。


(人の遺体を見て、ここまで冷静でいられる俺はどうかしてるな)


 真っ青に生気を失った藤堂さん。口に手を当てても当然ながら息をしていない。どっかの鋭い探偵さんだったら、今頃犯人を見つけてるかもしれない。

 

(よりによって……って感じだよな。こんな混乱してる時に殺人事件なんてもう大パニックだよ。地下の巽の父さんにでも報告した方がいいのかなぁ……)


 冷静でいられても、やはりあまりこの場所に長居はしたくない。臭いも酷いし、遺体の傷も――。


「あれ?」


 遺体の傷の惨状を確認しようとした時、気付いた。


(どこからこの血出てるんだ?)


 血は出ている。その血は、床いっぱいに広がって絨毯に染み込んでいる。小鳥の持っていた剣にもその血は付着していた。しかし、傷らしき傷は見当たらない。刺し傷もないし、殴られたような跡もない。


「ど、どうかされました?」

「あ? あぁ……いや~なんか変だなぁって。まぁ、さっきから色々変だなぁとは思ってたんですけどね。じっくり遺体を見て、改めて変だなぁって」


 興津さんは、恐る恐るといった表情で俺の背後から顔だけ出して、藤堂さんの遺体を確認する。しかし、やはりそれが恐ろしかったのか、すぐに目を塞いでしまった。


「ひぃい!」


(なんで覗いたんだ……)


「よくじっくり見れますね……慣れてるんですか?」

「いやいやいや! 慣れてたらヤバイっしょ! ま、もう俺の精神崩壊してるのかもしれないっす。慣れてはないですよ」


 俺を、ヤバい奴認定するのはやめてほしい。


「……そうですか。あ、あの……私もう行っていいでしょうか。地下に行かないと怖いですし」


 目を覆い隠したまま、興津さんは言った。


「あ~、でもなんかあったら呼びますね」

「え?」

「だって諜報大臣でしょう?」

「なるほど……」


(大丈夫か? この人)


「分かりました。私は地下にいますから、何かあったら呼んで下さい。あの……このことって颯様には……」

「小さな声で伝えた方がいいかと思います」

「どうしてですか?」

「皆、不安になると思うので。地下は沢山守ってくれる人がいるので大丈夫だと思いますし。お願いします」

「分かりました……それでは……」


 興津さんは立ち上がり、目を塞ぎながらカニ歩きで医務室から出て行った。


「傷もなく人を殺す手段なんて……あるのか?」

「もしかしたら……呪術かもしれません」


 小鳥を抱き寄せる母親が言った。


「呪術? それって……」


 確か図書館で勉強をしていた時だ。最初の頃、魔法とは何かを覚えるために魔法事典を見ていた。その中に記してあったはずだ。しっかりとは見ていないのだが。


「神と契約を交わし、相手を呪う魔法です。その代償もいくつか払わなくてはいけませんが……微かに感じるのです。呪術の痕跡を」

「名前からしてかなり物騒ですなぁ……使える人ってどんくらいいるんすか?」

「この国の者は、使おうと思えば皆使えます。しかし、今は法で禁じられております。ですから、もう使う人などほとんどいないのです」

「じゃあ、分かんないっすね……」


 不特定多数の中からその個人。しかも、国民全体ときたもんだ。はっきり言って無理。探せない。これは犯人を特定するのはやめて、さっさと藤堂さんを弔う方針に切り替えた方がいい。


「いえ、この呪術……血祭を扱える人など限られています。これは――」


 母親は顔を上げる。そして、俺の目を力強く見つめた。


「我が一族の女系のみに伝わる呪術です。そうなると、もう扱える人など限られています。母か、私か、それとも小鳥か……ですが、母も私も呪術などもう使える体ではないのです……隠すことなど出来ません。我が一族の失態……どうすれば……」

「は!?」


 俺は母親の腕に抱かれる小鳥に目を落とす。小鳥の頬には、母親の目から零れ落ちる涙が降り注ぐ。


(こんなに幼い子が……?)


 しかし、俺は思い出す。この世界にはもう一人の小鳥がいることを。


(あいつは今、どこにいる!? 待ち合わせ場所に急ごう!)


「ゴンザレス様!?」


一つの可能性、それを消す為に俺は医務室を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ