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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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ペンダント

–自室 昼–

 ゴンザレスの表情はまさに、見てはいけないものを見てしまった時の人間の顔だった。


「俺に一体これを……何を、どうしろと……」


 申し訳程度に、僕から目線を逸らすのはやめて欲しい。


「違う! これは誤解だ! 美月、早く降りてくれっ!」


 僕は必死に美月を押し上げようとしたのだが、この体勢のせいか上手く力が入らない。


「……見てしまったわね、生きては返せない」


 いつもより低い声で、美月は淡々と言った。


「何でもっと誤解を招くようなことを言うのっ!? というか、もう招く気満々だろ!」


 混乱と苦痛で熱が急上昇しそうだ。


「か、考え直せよ! 二人には婚約者がいるんだろ!? 俺はそう聞いたぞ!」

「あら? 誰からそれを……」


(もう嫌だ、二人の世界で勝手に何か盛り上がってるし。もう嫌だよ、頭も痛いし寝かせてくれよ)


 混沌としたこの空間から誰か早く解放してくれ、というかまず美月をどうにかしてくれ、そう思っていた時だった。

 コンコン、と優しくドアを叩く音が二人の声に紛れて聞こえた。


(誰だ!? あ、そう言えば、また昼になったら来ると言っていたな。彼女ならこの状況をまず冷静に考えてくれると信じたい。頼むよ。本当に)


 予想通り入ってきたのは使用人見習いの彼女だった。


「失礼しま……す? えっ、あの、え?」


 彼女もまた口をあんぐりと開けて立ち尽くした。それもそうだ、実の姉弟がこの状況である上、この馬鹿二人が意味深な言い合いをしているんだから。


「た、助けてくれ。この二人を黙らせてくれ。美月を降ろしてくれ……」

「あっ! は、はいっ! あの美月様、ゴンザレス様。お静かに……」


 しかし、虚しくも彼女の言葉はゴンザレスによって搔き消される。


「――んだよ、紛らわしいこと言ったりやったりすんなよ~。は~びっくりした!」

「遊んだだけ、楽しかった?」

「楽しくはないな、うん」

「あの!」


 彼女の大きな声でようやく、二人共彼女が来たことに気付いたようだった。


「おおっ!? あれ? お前誰かに似てるような、ないような……気のせいか?」

「あ、小鳥ちゃん、これは何も気にしなくていいからね。ゴンザレス、行くよ」


 美月はそう言うと、ようやく僕の上から降りて、ゴンザレスの首根っこを掴んでどっかに行ってしまった。

 美月は力が強い。かなり華奢だけど、一体どこからあんな力が湧いてくるのだろうか。大和撫子とは、真逆の位置にいる。


「あはは……嵐のように去って行ったね、迷惑をかけてすまない」


 僕は、とりあえず彼女に笑いかけた。


「いえいえ! 私の方は全然大丈夫なので……あれ?」


 彼女は、何かを見つけたようでその場にしゃがみ込む。


「どうしたんだい?」


 僕も起き上がって覗き込む。


「これ……巽様のですか?」


 彼女の手には、金色を基調としたペンダントがあった。そのペンダントは、所々に色鮮やかな宝石が散りばめられていた。


「いや、そんなの僕は知らないよ」


(見たこともない物が何故、僕の部屋にあるんだ?)


「そうですか、美月様かゴンザレス様のものですかね? 後で聞いてみます」

「嗚呼、そうしてくれ」


(美月の物か? 流石にゴンザレスはこんな可愛らしい物は持たないだろうし。でも、美月は……)


 僕は何だか奇妙な気分だったが、気のせいだと思うことにした。

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